環境に関する情報(TCFD開示)

JPXは、気候変動がリスクと機会の両面から当社の持続的な成長に影響を及ぼす可能性があることを認識し、2018年10月にTCFDに賛同を表明しました。TCFD提言に沿った情報開示を進めるとともに、提言内容を気候変動関連リスク・機会への対応を進める際の指針として活用することで、レジリエンスと持続的な成長性の向上に努めています。

ガバナンス

JPXは、気候変動への対応を重要な経営課題の一つとして認識し、グループCEOを本部長、グループCOOを副本部長とするサステナビリティ推進本部を設置して、関連課題の事業への影響分析し、対応を進めています。気候変動に係る基本方針や重要事項は、適宜取締役会に報告し、取締役会の監督が適切に図られる体制を整えています。また、全社的なリスク管理における重要リスクとして、気候変動を含むサステナビリティ関連のリスクを特定しており、リスク管理の観点からも四半期毎に取締役会に報告がなされる体制をとっています。

また、サステナビリティ担当役員を指名して、そのもとで、サステナビリティ推進部が中心となり、気候変動がJPXの事業にもたらすリスクと機会を把握し、それらに適切に対応できるよう、気候変動の影響を分析・モニタリングしています。

戦略

JPXは、気候変動がもたらすリスク・機会として想定される事項と、それらが当社グループの事業・戦略・財務計画に与える影響を検討し、リスク低減や企業価値向上に向けた施策を講じており、中期経営計画2024ではグリーン戦略として整理しています。

また、気候変動への対応は長期的で不確実性の高い課題であることから、戦略のレジリエンスを検討するため、TCFD提言の技術的補足文書等を参考に、シナリオ分析を実施しています。
シナリオ分析にあたっては、短期(~2025年)、中期(~2030年)、長期(~2050年)の時間軸を設定し、気候変動に関する物理的リスク、移行リスク・機会として想定される事項を特定したうえで、複数の外部シナリオ下における戦略や財務計画への影響・対応方針等を評価しています。

物理的リスクの分析

物理的リスクとは、気候変動に起因する自然災害等による資産や事業活動への直接的な損傷等に関するリスクをいいます。

分析プロセス

当社クループが保有もしくは使用する主な資産のうち、気候変動による物理的リスクの影響を受ける可能性がある資産を特定し、以下のプロセスで分析を実施しています。ただし、当社グループの有形固定資産が非流動資産に占める割合が低位に止まること、自然災害等を含むリスクに対するBCP計画を有していることから、資産価値への影響ではなく、主に事業継続の観点から分析を実施しています。

A)リスクの特定

分類 気候変動がもたらすリスクとして想定される事項 時間軸
急性 自然災害の激甚化による操業停止や物的損害が発生した場合、短期的な収益の減少や、中長期的な投資家の離反につながる可能性が考えられます。 短期~長期
慢性 長期的に気候パターンが変化した場合、操業停止や関連対応等が増加し、取引所の事業運営が妨げられる可能性が考えられます。 長期

  • 急性の物理的リスクは、サイクロン、ハリケーン、または洪水などの異常気象事象の激化など、事象に起因するものを指します。
  • 慢性の物理的リスクは、海面上昇や長期的な熱波の原因となりうる気候パターン(長期的高温など)の長期的なシフトを指します。

B)分析スコープの決定

  • 対象:国内事務所、データセンター
  • ハザード:洪水、高潮、海面上昇、土砂災害、急傾斜地崩壊
  • 主な参照シナリオ:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次報告書 SSP1-2.6、SSP5-8.5
  • 時間軸:長期(~2050年)

C)シナリオを用いた分析の実施
国土交通省が提供するハザードマップや国土数値情報のハザード情報を基に、分析対象である国内事務所とデータセンターのリスク状況を把握したのち、IPCC第 6次評価報告書等で取り上げられているシナリオのうち、GHG排出が非常に多いシナリオ(SSP5-8.5)とGHG排出が少ないシナリオ(SSP1-2.6)を参照して、国内事務所とデータセンターに対する影響を分析しています。

D)対応方針・施策の確認
(1)急性リスクへの対応

  • 全社リスク管理において、甚大な被害を伴う自然災害の発生等による事業継続(BCP)リスクを重要リスクのひとつと位置付けており、こうしたリスクに対応するため、未然防止の観点からリスクの認識と対応策の整備・運用を行うとともに、リスクが顕在化した、あるいはそのおそれが生じた場合には、早期に適正な対応をとる体制を整えています。
  • 自然災害等のリスクが発現した場合の事業継続については、「緊急時事業継続計画(BCP)」を策定し、対策を講じています。
  • 自然災害等が業務継続の妨げにならないよう、業務(オペレーション)・システム(データセンター)両面において首都圏・関西圏に拠点を設置するなど、東西相互バックアップ態勢の強化にも取り組んでいます。また、交通機関の麻痺等により社員が出社できなくなるリスクに備え、安定的な市場運営を行えるようリモート環境の整備を進めるとともに、平時より在宅勤務の活用、運用整備等を推進しています。
  • 自然災害等のリスクが発現し、取引参加者が株式等の売買に参加できない状況が発生した場合は、当社グループが策定・公表する「コンティンジェンシー・プラン」に基づいて売買停止の要否を検討することとしています。 詳細は「コンティンジェンシー・プラン」をご覧ください。
     
    コンティンジェンシー・プラン

(2)慢性リスクへの対応

  • 事務所やデータセンター等の選定の際に、他のリスクと併せて、自然災害の影響を考慮するとともに、最新のハザードマップや気象データ等を参照して各拠点への影響をモニタリングしています。また、必要に応じて、当社グループが利用するインフラ・サービスの提供者と対話し、必要な改善を求めていきます。

分析結果

上記前提のもとでは、現時点で気候変動の物理的リスクとして想定されるものについては、現行の全社リスク管理において対応しており、当社グループの事業継続、戦略や財務への影響は限定的と考えます。

移行リスク・機会の分析

移行リスクとは、低炭素社会への移行に伴って発生する政策・法務・技術革新・市場嗜好の変化等に起因するリスクのことをいいます。

分析プロセス

当社グループに影響を与える可能性が考えられる移行リスクを特定し、以下のプロセスで分析を実施しました。

A)移行リスク・機会の特定

リスク

 
分類 気候変動がもたらすリスクとして想定される事項 時間軸 関連財務項目 関連施策
法・規制 GHG排出量削減に係る政策・規制が強化(炭素税や罰金等の導入等)された場合、事業活動に伴うGHG排出コスト及び排出削減のための投資に伴うコストが増加する可能性が考えられます。 中期~長期 費用 ・現行の関連法規制を遵守し、空調設備や給湯設備の更新、照明のLED化等を進めています。
・2024 年度までにJPXグループ全体で消費する電力の100%を再生可能エネルギーに切り替え、JPX グループ全体でのカーボン・ニュートラル達成を目指しています。
ESG情報開示や関連商品・サービスに関する法規制等が強化された場合、JPXが取り扱う商品、運営する市場、及びJPX自身の事業運営に様々な影響が生じることが予想されます。例えば、法規制の強化に対応できない商品の発生や、市場利用者が規制強化を倦厭し離反する場合、JPXの収益に影響が出る可能性が考えられます。 短期~長期 収益(現物) ・法規制等の変化に適時適切に対応できるよう、規制当局をはじめとする関係者との連携強化に努めるほか、国際基準策定の場や業界団体(IRCC、WFE、SSE等)を活用し、意見発信、グローバル動向の把握にも注力しています。
・上場会社に対しては、「JPX ESG Knowledge Hub」等を通じて、ESG情報開示に対する理解促進や、負荷軽減を図っています。
技術 脱炭素化に向け関連技術のイノベーション創出が活発化した場合、ITシステム等に新技術を取り入れる必要が生じ、設備投資に伴うコストが増加する可能性が考えられます。 中期~長期 費用 ・当社のビジネスの基盤となるITシステム関連設備については、最新技術を活用することで高性能・高品質を実現するとともに、高効率・低排出にも寄与しています。追加費用が発生した場合でも、短期的にはランニングコスト低下、中長期的には脱炭素社会への移行を支え、企業価値の向上に繋がると考えています。
市場 投資家の要求水準が高まり、JPXの運営する市場に上場する会社や商品の気候変動に関する取組みや情報開示が不十分と評価された場合、JPXが提供する商品やサービスに対する需要が減少し、収益に影響が出る可能性が考えられます。 短期~長期 収益(現物) ・市場利用者のニーズに合った商品・サービスを提供できるよう、関係者と緊密に連携してニーズの把握、商品・サービスの開発に努める。2022年4月にはJPX総研を設立し、より一層ESG関連のサービス等の拡充を図る予定です。
・上場会社に対しては、コーポレートガバナンス・コードにおいて、企業価値向上につながるサステナビリティ課題への取り組みや情報開示に積極的に取り組むよう求めています。
評判 JPXグループの市場運営やその姿勢、または日本企業の経営姿勢において、気候変動対策への取組みが不足していると解されることにより、JPX及び日本市場全体への評価・信頼が低下し、ビジネス機会の縮小、資金調達コストの上昇につながる可能性が考えられます。 短期~長期 収益(現物・デリバティブ・市場関連サービス) ・長期ビジョンや中期経営計画2024において、気候変動をはじめとするサステナビリティ課題に積極的に取り組む姿勢を打ち出し、関連施策を進めるとともに、情報開示・ステークホルダーとの対話に努めています。
・国内外の議論への参加や情報発信に注力しており、金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議」等への参加、SSEやWFE等での意見発信を行っているほか、JPXに「サステナブルファイナンス環境整備検討会」を設置し、実務的検討を行い、具体的施策を実施しています。

機会

 
分類 気候変動がもたらす機会として想定される事項 時間軸 関連財務項目 関連施策
製品およびサービス ESG投資の拡大を踏まえ、気候変動を含むESG課題に関連した商品・サービスの提供を拡大することで、関連収入が増加する可能性が考えられます。 短期~中期 収益(現物・デリバティブ・市場関連サービス) ・中期経営計画2024の注力分野の一つに「社会と経済をつなぐサステナビリティの推進」を掲げ、「サステナビリティ関連情報の発信に係る機能強化」、「ESGに関連した指数の算出、関連ETF・先物等の上場」、「エネルギー関連市場の活性化、排出量市場創設の推進」に注力しています。
グリーンボンド等、サステナブルファイナンスを活用することで、資金調達コストを低減できる可能性が考えられます。 短期~中期 費用 ・カーボン・ニュートラル実現に向け自ら再エネ発電設備を保有し再エネを創出する計画の一環として2022年6月にグリーン・デジタル・トラック・ボンドを発行しました。
エネルギー源 再エネ発電設備の所有を含むエネルギー調達手段の多様化により、エネルギー調達に係る価格変動や、炭素税等の炭素排出に係る潜在的なコスト増加へのエクスポージャーを低減できる可能性が考えられます。 短期~中期 費用 ・太陽光発電設備、廃食用油を燃料とするバイオマス発電設備を保有し、複数の方法で再エネを自己創出することで、2024年度までにグループ全体のカーボン・ニュートラルを達成することを目指しています。

B)シナリオ分析スコープの決定
当社グループの収益の約6割を占め、中長期的には他の収益(デリバティブ関連収益、市場関連サービス収益)にも影響を及ぼす可能性があると考えられる現物市場関連収益に焦点を当てて分析を実施しています。

  • 実施対象:現物市場関連収益
  • 参照外部シナリオ:気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)シナリオ(Net Zero 2050, Delayed transition, Current policies)
  • 時間軸:長期(~2050年)

C)シナリオを用いた分析の実施
当社グループが運営する株式市場の上場会社の大半が国内企業であることから、現物市場関連収益の変動ファクタ(売買代金、時価総額)と国内GDPの間に一定の相関があると仮定し、NGFSシナリオ(Net Zero 2050, Delayed transition, Current policies)で示されている日本のGDPを使って、現物市場関連収益への影響を試算しています。

D)対応方針・施策の確認
移行リスク・機会については不確実性が高いため、規制環境の変化や市場動向の把握に努め、リスク管理、事業機会創出の両面から対応すべく、経営課題として取り組んでおり、気候変動への対応を全社リスク管理、事業計画に取り込み、各施策を進めています。

分析結果

上記前提のもとでは、迅速に排出削減政策が導入された場合には短期的に当該収益が減少する可能性があるものの、長期的には政策導入により気温上昇が抑えられるシナリオほど収益へのマイナス影響は小さいという結果を得ています。

また、シナリオ間での試算値の差は最大でも現物市場関連収益全体の5%未満で影響は限定的と考えられますが、ネットゼロへの秩序ある移行を後押しすることが、気候変動による当社グループへのネガティブな影響を低減させるためにも、事業機会創出の観点からも重要と考え、グリーン戦略のもとで進めている各種施策を確実に実施するとともに、さらに貢献できる分野・施策を模索していきます。

リスク管理

JPXは、直面する様々なリスクに対応するため、社外取締役を委員長とする「リスクポリシー委員会」及びCEOを委員長とする「リスク管理委員会」を設置し、「リスク管理方針」に従って、未然防止の観点からリスクの認識と対応策の整備・運用を行うとともに、リスクが顕在化あるいはそのおそれが生じた場合には、早期に適正な対応をとる体制を整えています。「リスク管理方針」では、JPXが抱えるリスクを特定したうえで分類し、所管部署が管理することとしており、その運用評価・問題点に関する情報は「リスクポリシー委員会(半期毎)」及び「リスク管理委員会(四半期毎)」に定期的に集約し、その都度、取締役会に報告しています。

気候変動を含むサステナビリティ関連のリスクについては、「リスクポリシー委員会」において「事業環境・事業戦略リスク」に係る重要リスクに特定し、サステナビリティ推進部が管理しています。

JPXのリスク管理体制の詳細については以下のページをご覧ください。

リスク管理への取組み

指標・目標値

JPXは、温室効果ガス排出削減に係る政策・規制の強化に備え、主な排出要因である電力の調達方法を見直し、2024年度までにJPXグループ全体で消費する電力の100%を再エネに切り替えスコープ2排出量を0にすること、同時期までにJPXグループ全体でのカーボン・ニュートラル(Scope1、2)達成を目指しています。2020年度より、その他のCO2排出量(Scope3)の算出も開始し、バリューチェーン全体の適切な排出量管理を行いつつ、温室効果ガスの排出を抑えるべく取り組みます。また、中期経営計画2024においてはESGに関する長期目標として「2030年に向けて、証券市場の運営に係るカーボン・ニュートラルを目指す」を設定しました。

これらの目標に対し、Scope2については、2021年秋から順次電力契約をRE100に対応した電力メニュ等に切り替えたことに加え、2022年度からJPX自らが再エネ発電設備を保有し再エネを創出しています。また、Scope1はガス使用とガソリン使用が大半を占めますが、Jクレジット等を用いてオフセットを検討しています。

なお、Scope3の大半を占める資本財は、IT基盤を支えるソフトウェア開発にかかるものであり、安定的な市場運営に必要な投資を維持しつつ、排出量管理を通じて逓減させることを目指します。

JPXグループ全体のスコープ1、スコープ2、及びスコープ3の排出量を含む環境関連データを以下のページで開示しています。

環境データ