環境に関する情報(TCFD開示/移行計画)
JPXは、気候変動がリスクと機会の両面から当社の持続的な成長に影響を及ぼす可能性があることを認識し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に沿った情報開示を進めるとともに、提言内容を気候変動関連リスク・機会への対応を進める際の指針として活用することで、レジリエンスと持続的な成長性の向上に努めています。
TCFD提言やIFRS財団ISSB基準においては、脱炭素社会への移行に関して、移行計画(低炭素経済への移⾏をサポートする⼀連の⽬標や⾏動を⽰す、GHG排出量の削減などの⾏動を含む組織の全体的な事業戦略の⼀側⾯)を策定して、ステークホルダーと共有、対話することが重要とされています。
JPXは、以下に示すとおり、TCFDコンソーシアム策定の「移行計画ガイドブック」等を参照して脱炭素社会への移行に向けた目標及び行動計画を策定しています。
※移行計画については、グラスゴー金融同盟(GFANZ)等でもガイダンス策定や構成要素の整理が進んでおり、当社の移行計画策定においては、GFANZ、CDP、TPTも参照しています。
なお、当社は、CDPへの回答を当ウェブサイト上で公開しています。詳しくは、以下のページをご参照ください。
ガバナンス
JPXは、気候変動への対応を重要な経営課題の一つとして認識し、グループCEOを本部長、グループCOOを副本部長とするサステナビリティ推進本部を設置して、関連課題の事業への影響分析し、対応を進めています。気候変動に係る基本方針や目標、施策等については、適宜取締役会に報告し、取締役会の監督が適切に図られる体制を整えています。加えて、全社的なリスク管理においても、気候変動を含むサステナビリティ関連のリスクを重要リスクと特定し、リスク管理の観点からも四半期毎に取締役会に報告がなされる体制をとっています。
また、サステナビリティ担当役員を指名して、そのもとで、サステナビリティ推進部が中心となり、気候変動がJPXの事業にもたらすリスクと機会を把握し、それらに適切に対応できるよう、気候変動の影響を分析・モニタリングしています。
執行役に対して支給する中長期インセンティブ(金銭報酬)を、中期経営計画2024において示す連結ROE及びサステナビリティ施策の達成度に連動させることとしています。
気候変動に関する取組み・計画は、経営計画との連結性を確保するため、中期経営計画の更新と同時期に見直しを実施することを予定しています。見直しに当たっては、関係部署とともに、各施策の進捗と目標水準の妥当性を検討し、外部環境の変化や株主を含むステークホルダーからの期待等を考慮する予定です。
戦略
当社グループは、企業理念で掲げる「市場の持続的な発展を図り、豊かな社会の実現に貢献」に向け、我々を取り巻く環境や社会課題、それらとの関係に目を向け、企業価値の向上につながる取組みを進めることが重要な経営課題の一つであると認識し、経営方針を定め、経営計画等を策定しています。
特に、気候変動に関しては、日本におけるカーボン・ニュートラル実現に貢献するべく、市場運営者として、また、事業会社として、各種施策を講じており、中期経営計画2024ではグリーン戦略として整理しています。
市場運営者として(Market-focused)
公正性・信頼性を備えた利便性・効率性及び透明性が高い市場と魅力的なサービスを提供するという当社グループのビジネスモデルを踏まえると、市場メカニズムを活用した取組みを進めていくことが肝要と考えています。
現行中期経営計画(2022年度-2024年度)においては、特に以下の分野に注力しています。
- コーポレートガバナンス・コードを通じた、上場会社におけるサステナビリティを巡る課題への対応と情報開示の促進
- サステナビリティ関連情報の発信に係る機能強化(公募ESG債情報プラットフォームの機能拡張を含めた発展)
- ESGに関連した指数の算出、関連ETF・先物等の上場
- エネルギー関連市場の活性化
- 排出量市場創設の推進(カーボン・クレジット市場創設)
- デジタル証券を活用した「グリーン・デジタル・トラック・ボンド」の普及促進
- 上場会社のESG情報開示を支援する「JPX ESG Knowledge Hub」の拡充
脱炭素社会の実現に向けては、国内外の関係者と連携して取組みを進めることが重要であると考えており、エンゲージメントに注力しています。
- ネットゼロを目指す各国取引所、サービスプロバイダーと連携を深めるため、2023年12月にNZFSPAに加盟
同時に、GFANZ日本支部に参加し、国内外の金融機関と協力して、移行ファイナンスの課題や金融界の役割に関する議論に参加 - 金融庁のサスティナブルファイナンス有識者会議等、省庁の会議体において、トランジションファイナンスや気候変動に関する金融、産業界の課題や施策を検討に参加
- 官民連携の場であるTCFDコンソーシアムでの活動を通じて、移行計画ガイダンスの策定等に参加
事業会社として(Exchange-focused)
JPXは、主な排出要因である電力の調達方法を見直し、2024年度までにJPXグループ全体で消費する電力の100%を再生可能エネルギーに切り替えることで、同時期までにJPXグループ全体でのカーボン・ニュートラル(スコープ1、2)達成を目指しています。
バリューチェーン全体での適切な排出量管理に向けて、その他のCO2排出量(スコープ3)を算定・公表しています。スコープ3の削減に向けては、スコープ3の大半を占める資本財がIT基盤を支えるソフトウェア開発にかかるものであることを踏まえ、安定的な市場運営に必要な投資を維持しつつ、排出量管理を通じて逓減させることを検討しています。
2023年から政府のGX戦略の一角を成すGXリーグに参画しており、2050年カーボン・ニュートラル達成を目指す国の政策に貢献していきます。
シナリオ分析
気候変動への対応は長期的で不確実性の高い課題であることから、戦略のレジリエンスを検討するため、TCFD提言の技術的補足文書等を参考に、シナリオ分析を実施しています。
シナリオ分析にあたっては、短期(~2025年)、中期(~2030年)、長期(~2050年)の時間軸を設定し、気候変動に関する物理的リスク、移行リスク・機会として想定される事項を特定したうえで、複数の外部シナリオ下における戦略や財務計画への影響・対応方針等を評価しています。
物理的リスクの分析
物理的リスクとは、気候変動に起因する自然災害等による資産や事業活動への直接的な損傷等に関するリスクをいいます。
分析プロセス
当社クループが保有もしくは使用する主な資産のうち、気候変動による物理的リスクの影響を受ける可能性がある資産を特定し、以下のプロセスで分析を実施しています。ただし、当社グループの有形固定資産が非流動資産に占める割合が低位に止まること、自然災害等を含むリスクに対するBCP計画を有していることから、資産価値への影響ではなく、主に事業継続の観点から分析を実施しています。
A)リスクの特定
分類 | 気候変動がもたらすリスクとして想定される事項 | 時間軸 |
---|---|---|
急性 | 自然災害の激甚化による操業停止や物的損害が発生した場合、短期的な収益の減少や、中長期的な投資家の離反につながる可能性が考えられます。 | 短期~長期 |
慢性 | 長期的に気候パターンが変化した場合、操業停止や関連対応等が増加し、取引所の事業運営が妨げられる可能性が考えられます。 | 長期 |
- 急性の物理的リスクは、サイクロン、ハリケーン、又は洪水などの異常気象事象の激化など、事象に起因するものを指します。慢性の物理的リスクは、海面上昇や長期的な熱波の原因となりうる気候パターン(長期的高温など)の長期的なシフトに起因するものを指します。
B)分析スコープの決定
- 対象:国内事務所、データセンター
- ハザード:洪水、高潮、海面上昇、土砂災害、急傾斜地崩壊
- 主な参照シナリオ:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次報告書 SSP1-2.6、SSP5-8.5
- 時間軸:長期(~2050年)
C)シナリオを用いた分析の実施
国土交通省が提供するハザードマップや国土数値情報のハザード情報を基に、分析対象である国内事務所とデータセンターのリスク状況を把握したのち、IPCC第 6次評価報告書等で取り上げられているシナリオのうち、GHG排出が非常に多いシナリオ(SSP5-8.5)とGHG排出が少ないシナリオ(SSP1-2.6)を参照して、国内事務所とデータセンターに対する影響を分析しています。
D)対応方針・施策の確認
(1)急性リスクへの対応
- 全社リスク管理において、甚大な被害を伴う自然災害の発生等による事業継続(BCP)リスクを重要リスクのひとつと位置付けており、こうしたリスクに対応するため、未然防止の観点からリスクの認識と対応策の整備・運用を行うとともに、リスクが顕在化した、あるいはそのおそれが生じた場合には、早期に適正な対応をとる体制を整えています。
- 自然災害等のリスクが発現した場合の事業継続については、「緊急時事業継続計画(BCP)」を策定し、対策を講じています。
- 自然災害等が業務継続の妨げにならないよう、業務(オペレーション)・システム(データセンター)両面において首都圏・関西圏に拠点を設置するなど、東西相互バックアップ態勢の強化にも取り組んでいます。また、交通機関の麻痺等により社員が出社できなくなるリスクに備え、安定的な市場運営を行えるようリモート環境の整備を進めるとともに、平時より在宅勤務の活用、運用整備等を推進しています。
- 自然災害等のリスクが発現し、取引参加者が株式等の売買に参加できない状況が発生した場合は、当社グループが策定・公表する「コンティンジェンシー・プラン」に基づいて売買停止の要否を検討することとしています。
詳細は「コンティンジェンシー・プラン」をご覧ください。
(2)慢性リスクへの対応
- 事務所やデータセンター等の選定の際に、他のリスクと併せて、自然災害の影響を考慮するとともに、最新のハザードマップや気象データ等を参照して各拠点への影響をモニタリングしています。また、必要に応じて、当社グループが利用するインフラ・サービスの提供者と対話し、必要な改善を求めていきます。
分析結果
上記前提のもとでは、現時点で気候変動の物理的リスクとして想定されるものについては、現行の全社リスク管理において対応しており、当社グループの事業継続、戦略や財務への影響は限定的と考えます。
移行リスク・機会の分析
移行リスクとは、低炭素社会への移行に伴って発生する政策・法務・技術革新・市場嗜好の変化等に起因するリスクのことをいいます。
分析プロセス
当社グループに影響を与える可能性が考えられる移行リスクを特定し、以下のプロセスで分析を実施しました。
A)移行リスク・機会の特定
リスク
分類 | 気候変動がもたらすリスクとして 想定される事項 |
時間軸 | 関連財務 項目 |
関連施策 |
---|---|---|---|---|
法・規制 | GHG排出量削減に係る政策・規制が強化(炭素税や罰金等の導入等)された場合、事業活動に伴うGHG排出コスト及び排出削減のための投資に伴うコストが増加する可能性が考えられます。 | 中期~長期 | 費用 |
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ESG情報開示や関連商品・サービスに関する法規制等が強化された場合、JPXグループが取り扱う商品、運営する市場、及びJPX自身の事業運営に様々な影響が生じることが予想されます。例えば、法規制の強化に対応できない商品の発生や、市場利用者が規制強化を倦厭し離反する場合、JPXの収益に影響が出る可能性が考えられます。 | 短期~長期 | 収益 (現物) |
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技術 | 脱炭素化に向け関連技術のイノベーション創出が活発化した場合、ITシステム等に新技術を取り入れる必要が生じ、設備投資に伴うコストが増加する可能性が考えられます。 | 中期~長期 | 費用 |
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市場 | 投資家の要求水準が高まり、JPXグループの運営する市場に上場する会社や商品の気候変動に関する取組みや情報開示が不十分と評価された場合、JPXが提供する商品やサービスに対する需要が減少し、収益に影響が出る可能性が考えられます。 | 短期~長期 | 収益 (現物) |
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評判 | JPXグループの市場運営やその姿勢、または日本企業の経営姿勢において、気候変動対策への取組みが不足していると解されることにより、JPX及び日本市場全体への評価・信頼が低下し、ビジネス機会の縮小、資金調達コストの上昇につながる可能性が考えられます。 | 短期~長期 | 収益 (現物・デリバティブ・市場関連サービス) |
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機会
分類 | 気候変動がもたらす機会として 想定される事項 |
時間軸 | 関連財務 項目 |
関連施策 |
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製品およびサービス | ESG投資の拡大を踏まえ、気候変動を含むESG課題に関連した商品・サービスの提供を拡大することで、関連収入が増加する可能性が考えられます。 | 短期~中期 | 収益(現物・デリバティブ・市場関連サービス) |
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グリーンボンド等、サステナブルファイナンスを活用することで、資金調達コストを低減できる可能性が考えられます。 | 短期~中期 | 費用 |
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エネルギー源 | 再エネ発電設備の所有を含むエネルギー調達手段の多様化により、エネルギー調達に係る価格変動や、炭素税等の炭素排出に係る潜在的なコスト増加へのエクスポージャーを低減できる可能性が考えられます。 | 短期~中期 | 費用 |
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B)シナリオ分析スコープの決定
当社グループの収益の約6割を占め、中長期的には他の収益(デリバティブ関連収益、市場関連サービス収益)にも影響を及ぼす可能性があると考えられる現物市場関連収益に焦点を当てて分析を実施しています。
- 実施対象:現物市場関連収益
- 参照外部シナリオ:気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)シナリオ(Net Zero 2050, Delayed transition, Current policies)
- 時間軸:長期(~2050年)
C)シナリオを用いた分析の実施
当社グループが運営する株式市場の上場会社の大半が国内企業であることから、現物市場関連収益の変動ファクタ(売買代金、時価総額)と国内GDPの間に一定の相関があると仮定し、NGFSシナリオ(Net Zero 2050、Delayed transition、Current policies)で示されている日本のGDPを使って、現物市場関連収益への影響を試算しています。
D)対応方針・施策の確認
移行リスク・機会については不確実性が高いため、規制環境の変化や市場動向の把握に努め、リスク管理、事業機会創出の両面から対応すべく、経営課題として取り組んでおり、気候変動への対応を全社リスク管理、事業計画に取り込み、各施策に取り組んでいます。
また、GXリーグへの参画、グラスゴー金融同盟(GFANZ)日本支部への参加、Net-Zero Data Public Utilityとのラウンドテーブル開催等を通じ、国内外の関係者と連携して脱炭素社会への移行に関する取組みを進めています。
分析結果
上記前提のもとでは、迅速に排出削減政策が導入された場合には短期的に当該収益が減少する可能性があるものの、長期的には政策導入により気温上昇が抑えられるシナリオほど収益へのマイナス影響は小さいという結果を得ています。
また、シナリオ間での試算値の差は最大でも現物市場関連収益全体の5%未満で影響は限定的と考えられますが、ネットゼロへの秩序ある移行を後押しすることが、気候変動による当社グループへのネガティブな影響を低減させるためにも、事業機会創出の観点からも重要と考え、グリーン戦略のもとで進めている各種施策を確実に実施するとともに、さらに貢献できる分野・施策を模索していきます。
リスク管理
JPXは、直面する様々なリスクに対応するため、社外取締役を委員長とするリスクポリシー委員会及びCEOを委員長とするリスク管理委員会を設置し、リスク管理方針に従って、未然防止の観点からリスクの認識と対応策の整備・運用を行うとともに、リスクが顕在化あるいはそのおそれが生じた場合には、早期に適正な対応をとる体制を整えています。この体制のもと、JPXが抱えるリスクを特定したうえで分類し、所管部署が管理を行い、定期的に運用評価・問題点に関する情報をリスクポリシー委員会(半期毎)及びリスク管理委員会(四半期毎)に集約し、取締役会に報告しています。
気候変動を含むサステナビリティ関連のリスクについては、リスクポリシー委員会において事業環境・事業戦略リスクに係る重要リスクに特定し、サステナビリティ推進部が管理しています。
JPXのリスク管理体制の詳細については以下のページをご覧ください。
指標・目標値
JPXは、温室効果ガス排出削減に係る政策・規制の強化に備え、主な排出要因である電力の調達方法を見直し、2024年度までにJPXグループ全体で消費する電力の100%を再エネに切り替えること、同時期までにJPXグループ全体でのカーボン・ニュートラル(スコープ1、2)達成を目指しています。また、その他のCO2排出量(スコープ3)も算出し、バリューチェーン全体の適切な排出量管理を行いつつ、温室効果ガスの排出を抑えるべく取り組みます。また、中期経営計画2024においてはESGに関する長期目標として「2030年に向けて、証券市場の運営に係るカーボン・ニュートラルを目指す」を設定しています。
これらの目標に対し、JPX各拠点の電力需要を踏まえ、JPX自らが再エネを創出する取組みを含む様々な手法を組み合わせ、2023年度には約81%の再エネ化を実現し、2020年度比で約12,000t-CO2を削減しました。また、スコープ1についても都市ガスやガソリン使用量を抑えつつ、2023年度分の排出はJ‐クレジットによりオフセットを行っています。
なお、スコープ3の大半を占める資本財は、IT基盤を支えるソフトウェア開発にかかるものであり、安定的な市場運営に必要な投資を維持しつつ、排出量管理を通じて逓減させることを目指します。
JPXグループ全体のスコープ1、スコープ2、及びスコープ3の排出量を含む環境関連データを以下のページで公開しています。