上場会社の取組み支援
東京証券取引所(以下、東証)では、「コーポレートガバナンス・コード」として、実効的なコーポレート・ガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめています。
「コーポレートガバナンス・コード」には、その副題「~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」でも表れているとおり、実効的なコーポレート・ガバナンスの実現によって、それぞれの会社における持続的な成長と企業価値向上のための自律的な対応が図られ、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与することへの期待が込められています。会社にとって持続可能性を巡る課題への対応はリスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であり、かつ積極的・能動的に取り組むよう検討すべき課題であるため、「コーポレートガバナンス・コード」にはESG投資のG(ガバナンス)に限らず、S(社会)とE(環境)に関する項目も含まれています。
2026年7月に実施された改訂後、SとE課題に関する項目は以下のとおりです。
なお、金融庁は今回の改訂を踏まえ、上場会社の経営者及び担当者の皆様向けの参考資料を公開しています。
出典:金融庁
SとE課題に関する項目
【基本原則2】
上場会社は、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の創出は、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会をはじめとする様々なステークホルダーによるリソースの提供や貢献の結果であることを十分に認識し、これらのステークホルダーとの適切な協働に努めるべきである。
取締役会・経営陣は、これらのステークホルダーの権利・立場や健全な事業活動倫理を尊重する企業文化・風土の醸成に向けてリーダーシップを発揮すべきである。
【原則2-2.社内の多様性の確保】
上場会社は、ジェンダーや国際性、経歴(中途採用を含む)、年齢、文化的背景やこれらに限られない観点から、中核人材への登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標を決定するとともに、その状況を開示すべきである。また、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針をその実施状況と併せて開示すべきである。
解釈指針
社内に異なる経験・技能・属性を反映した多様な視点や価値観が存在することは、イノベーションや新しい価値創造の源泉であり、会社の変革や持続的な成長を確保する上での強みとなり得る。上場会社は、持続的な成長に向けた人材戦略の重要性に鑑み、ジェンダー・国際性・経歴(中途採用を含む)・年齢・文化的背景やこれらに限られない観点か、上場会社が置かれた状況に応じた多様性を確保するための考え方と自主的かつ測定可能な目標を決定すべきである。
【基本原則3】
上場会社は、会社の財政状態・経営成績等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
その際、取締役会は、開示・提供される情報が株主との間で建設的な対話を行う上での基盤となることも踏まえ、そうした情報(とりわけ非財務情報)が、正確で利用者にとって分かりやすく、情報として有用性の高いものとなるようにすべきである。
解釈指針
上場会社には、様々な情報を開示することが求められている。これらの情報が法令に基づき適時適切に開示されることは、投資家保護や資本市場の信頼性確保の観点から不可欠の要請であり、取締役会・監査役・監査役会・会計監査人は、この点に関し財務情報に係る内部統制体制の適切な整備をはじめとする重要な責務を負っている。
また、上場会社は、会社の意思決定の透明性・公正性を確保し、実効的なコーポレートガバナンスを実現するとの観点から、法令及び本コードの各原則において開示することが求められる事項のほか、それら以外の項目の情報提供にも主体的に取り組むべきである。
更に、我が国の上場会社による情報開示は、計表等については、様式・作成要領などが詳細に定められており比較可能性に優れている一方で、会社の財政状態、経営戦略、リスク、ガバナンスや社会・環境問題に関する事項などについて説明等を行ういわゆる非財務情報を巡っては、ひな型的な記述や具体性を欠く記述となっており付加価値に乏しい場合が少なくない、との指摘もある。取締役会は、こうした情報を含め、開示・提供される情報が可能な限り利用者にとって有益な記載となるよう積極的に関与を行う必要がある。
法令に基づく開示であれそれ以外の場合であれ、適切な情報の開示・提供は、情報の非対称性の下におかれている株主等のステークホルダーと認識を共有し、その理解を得るための有力な手段となり得るものであり、「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》」を踏まえた建設的な対話にも資するものである。
【基本原則4】
上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、
- 企業戦略等の大きな方向性を示すこと
- 経営陣による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと
- 独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと
【原則4-5.取締役会の役割・責務 Ⅳ:サステナビリティを巡る取組み】
取締役会は、中長期的な企業価値の向上の観点から、サステナビリティを巡る課題に積極的・能動的に取り組むべきであり、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定するほか、適切な対応を行うべきである。
解釈指針
サステナビリティ(中長期的な持続可能性)は重要な経営課題であると認識されている。加えて、中長期的な企業価値を判断する上でサステナビリティ情報の重要性が世界的に高まる中、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)により国際的な開示基準(ISSB基準)が策定され、各国においてサステナビリティ開示基準の適用に向けた動きが進展している。我が国においても、一定のプライム市場上場会社に対し、ISSB基準と整合的な、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)により策定された開示基準に基づく有価証券報告書の作成が義務付けられている。こうした中、サステナビリティ課題への積極的・能動的な対応を進めていくことが重要である。
取締役会は、気候変動などの地球環境問題への配慮、人権の尊重、従業員の健康・労働環境への配慮や公正・適切な処遇、自然災害等への危機管理、多様性などのサステナビリティに関する課題への対応はリスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題について適切な対応を行うべきである。
【原則4-7.任意の仕組みの活用】
上場会社は、会社法が定める会社の機関設計のうち会社の特性に応じて最も適切な形態を採用するに当たり、必要に応じて任意の仕組みを活用することにより、統治機能の更なる充実を図るべきである。
特に、監査役会設置会社又は監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置し、適切な関与・助言を得るべきである。
プライム市場上場会社は、各委員会の構成員の過半数を独立社外取締役とすることを基本とし、その委員会構成の独立性に関する考え方・権限・役割等を開示すべきである。
解釈指針
最適な取締役会の在り方は各社の特性に応じて異なり得る。上場会社は、自社の状況に応じた最適な機関設計を採用しつつ、統治機能の更なる充実を図るため、指名委員会・報酬委員会等の任意の仕組みを有効に活用すべきである。
指名委員会・報酬委員会の設置は、経営陣・取締役の指名(サクセッションプランを含む)・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化する観点から重要である。指名委員会・報酬委員会は、取締役会が指名や報酬などの特に重要な事項に関する検討を行うに当たり、ジェンダー等の多様性やスキルの観点を含め、適切な関与・助言を行うことを責務とする。
【原則4-13.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
- 取締役会は、その役割・責務を実効的に果たすための知識・経験・能力を全体としてバランス良く備え、ジェンダーや国際性、経歴、年齢、文化的背景の面を 含む多様性と適正規模を両立させる形で構成されるべきであり、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキル等を特定すべきである。その上で、経営環境や事業特性等に応じた適切な形で取締役の有するスキル等の組み合わせを取締役の選任に関する方針・手続と併せて開示すべきである。
- 監査役には、適切な経験・能力及び必要な財務・会計・法務に関する知識を有する者が選任されるべきであり、特に、財務・会計に関する十分な知見を有している者が1名以上選任されるべきである。
独立社外取締役には、他社での経営経験を有する者を含めるべきである。 - 取締役会は、毎年、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである。
解釈指針
取締役会は、その役割・責務を果たし、経営戦略や経営計画を実行・実現するため、自らが備えるべきスキル等を特定した上で、取締役会の全体としての知識・経験・能力のバランス、多様性及び規模に関する考え方を定めるべきである。その上で、例えば、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキル・マトリックスを開示するなど、本原則の趣旨を踏まえた開示を行うべきである。
また、社外取締役・社外監査役をはじめ、取締役・監査役は、その役割・責務を適切に果たすために必要となる時間・労力を取締役・監査役の業務に振り向けるべきである。取締役・監査役が他の上場会社の役員を兼任する場合には、その数は合理的な範囲にとどめるべきである。
なお、取締役会の実効性評価を実施するに際しては、自らの役割・責務を果たすために、取締役会としてどのような機能を発揮すべきかを踏まえた評価を行うことが効果的である。評価の手法についても様々な方法が考えられるが、例えば、まずは各取締役が自ら及び取締役会全体についての評価を行うことが考えられる。