上場会社トップインタビュー「創」

株式会社ライフドリンク カンパニー
  • コード:2585
  • 業種:食料品
  • 上場日:2021/12/21
岡野 邦昭(株式会社ライフドリンク カンパニー)

経営者になることは視野になく、経営を支える公認会計士へ

岡野 邦昭(株式会社ライフドリンク カンパニー)インタビュー写真

 ペットボトルに入って売られる水やお茶を飲むようになったのはいつからだろうか。
令和の今、「昭和」というとレトロの象徴のように言われるが、ペットボトル飲料が家庭やオフィスに本格的に普及し出したのは、平成になってからだ。
 まさに昭和の時代に茶葉を扱っていた会社は、よもや平成から令和と続いていく未来に、競合相手がグローバル規模の総合飲料メーカーや食品メーカーになるとは考えていなかっただろう。
1972年に茶葉の卸売業として設立した「あさみや」(現:株式会社ライフドリンクカンパニー、以下LDC)もそうだったかもしれない。同社が2001年に飲料事業に進出しているのも、こうした世の中の動きと無関係ではない。
 現社長の岡野邦昭さんは、その当時は大学を卒業し公認会計士の資格を取り1社目の監査法人に勤務していた頃で、同社や創業家と縁はなかった。
 
「経営者になるという目標は、全くありませんでした。父は公務員、母はパートタイムで働く主婦という当時としてはごく普通の家庭環境で育って、自分が経営者になるともなれるとも思っていなかったですね」

 公認会計士になったのはなぜ——

「就職を考えたとき、総合職で入り研修を受けて配属が決まるというプロセスに抵抗がありました。どこに配属されるかわからないですから。そんな思いがあってとある適性検査を受けたら弁護士、会計士のような専門職に適性があるのでは、という記載があって試験勉強を始めたのです。なので、就職活動はせず、監査法人への入社に絞り、大阪のトーマツに入社することを決めました」

 入社当時は破綻案件が多く、監査業務とは別に財務調査や企業価値評価など、様々な業務を経験できたことが若い岡野さんの糧になったという。ただ、のちに企業再生の案件に直面したとき、バランスシートの整理やコストカットの提案はできても、会社をどうしたら成長させられるのか、その提案が自分には難しいことに気づいた。
 そして自分自身の成長のために、戦略系コンサルティングファームに転職し、その後も投資ファンドに勤務するなど、キャリアアップを重ねた。

 請われて初めて事業会社に入社したのは、前職の株式会社全国通販。CFO(最高財務責任者)から代表取締役社長のポジションを経験した。
「自分が経営者になりたいと初めて思ったのは、『社長になりませんか』と言われたこのときです」

「少品種化」「内製化」「全国展開」が成長を促す強みの源泉

岡野 邦昭(株式会社ライフドリンク カンパニー)インタビュー写真

 前職退任後には、現在の会社(LDC)に誘われた。入社時は取締役だったが、代表取締役社長になることは既定路線だった。

「いくつかの会社から誘いがありました。その中で飲料は競争が激しく厳しい業界。でもLDCのポジションはユニークで、面白いのではないかと思いました。あと2つ選んだ理由があって、1つは経営者にとって重要な株主と良い緊張感で仕事ができる環境だったこと。もう1つは社員が若いことが魅力でした。チャレンジできる環境ではないかという期待を持ったのです」

 岡野さんの入社を決断させたLDCとはどんな会社なのか。
 創業者田中綜治さんが茶葉の卸売りを始め、今も茶葉製品は同社の主力商品の一つだ。2001年に飲料事業に進出以降、後発ながら飲料メーカーの下請けではなく、小売店との直接取引を開拓する一方で、M&Aを繰り返し事業拡大と多角化を図ってきた。
 その後2015年、投資ファンドとの資本業務提携が同社のターニングポイントとなった。背景には事業承継問題があったという。1年後に田中さんが逝去され、本格的な事業の選択と集中が始まり、飲料、茶葉以外の事業は整理、売却を進めた。そして2018年には、現在のビジネスモデルである「MAX生産MAX販売」にかじを切る。

「ちょうど業績が悪く厳しい時期でした。MAX生産MAX販売をやり切ることで、業績回復にもつながったということです。私の入社は2019年後半、業績が上がりそうなタイミングでした。課せられた役割はそれをどう伸ばしていくか、さらにはIPO(新規上場)も視野に入っていました」

 こうした時を経て、現在の業容はシンプルだ。扱うカテゴリーは水、お茶、無糖炭酸水が中心で、強みは低価格と安定供給。売上の約6割を大手小売チェーンのプライベートブランド(PB)の製造受託が占める。

「当社の強みを生み出した源泉は、少品種化、内製化、全国展開の3つです。少品種化は、商品ジャンルそのものと容量を絞り込んでいます。例えばミネラルウォーターでも500(ml)、550、600など様々なサイズを見かけますが、当社は500mlと2Lの2種類のみ。そうすると生産効率を高めることができます。内製化は、具体的には通常は仕入れることが多いペットボトルについても原料から自社で製造しています。茶葉も自分たちで焙煎しコストを抑えているのです。全国展開とは、工場が北は岩手県、南は鹿児島県まで11カ所(グループ会社・協力工場含む)に分散しています。重量がある飲料は物流費がかかるので、消費地に近いとコストが抑えられるのが一つ。さらに重要なのは、全国にある取引先の小売店にスピーディに配送できることです。仮に地震や豪雨災害で1カ所の工場が止まってもほかの工場から出せます。つまり安定供給につながる。これらを愚直にやっていることが当社のビジネスの特徴です」

 確かにペットボトル飲料、特に水やお茶は、平時には贅沢品と考える人もいるかもしれない。一方でひとたび水道水が汚染されたり、災害で水道供給が止まったりすれば、必需品の筆頭となり、時に命をつなぐ。安定供給は同社のサステナブル経営と社会貢献の要の一つといえる。

社会の変化に恐れずチャレンジできる人材であってほしい

岡野 邦昭(株式会社ライフドリンク カンパニー)インタビュー写真

 企業理念は「おいしさの中心、安心の先頭へ」。2017年に社名変更した現在の社名には、ドリンクを通じてライフ、つまり日常生活を豊かにしたいという思いを表している。エッジをきかせない平均的な味が幅広い人に受け入れられている。水、お茶、炭酸水なら迷うことなく、それができる。

「とはいえ、世の中はどんどん変化しています。おいしさの中心は消費者のし好の変化によって変わっていくのに、自分たちがここだと思い込んでいては中心から外れていきます。消費者が何を求めているかは絶えず考えなければいけない。社員にもそれを求め、チャレンジを恐れないでほしいと伝えています」

 同社は、オーナー企業の状態から事業承継問題を乗り越えIPOを果たしており、会社は着実に変容し成長している。その中で人材についてどうお考えかを聞いた。

「工場が全国に分散し、その中ではいろいろな人が働いています。人財をどう育成するか、人財にどう成長してもらうかは重要だと考えています。機械を入れれば物は作れても、オペレーションもメンテナンスも人にしかできません。仕事をするうえで当事者意識(オーナーシップ)を持つこと、何事にもチャレンジすること、チームワークを大事にすることは重要だと言い続けています。研修については、各工場や本社で様々な取り組みをしています。工場長の研修も行っていますが、継続すると成長が実感でき、工場の運営が安定します。いかに人財に厚みを持たせることができるかを常に考えています」

 社員が退職するときに「この会社にいても成長できないと思いました」と言われるのが一番嫌だと岡野さんは言う。社員の成長は会社を成長させる原動力にもなる。

株式会社ライフドリンク カンパニー

同社の商品

EC事業に進出、生活者目線がビジネスに生かせる

 人的資本の強化は会社の成長をけん引する。

 PB主体の小売業との直取引で安定的な基盤を作る一方で、自社ブランドのEC(電子商取引)事業にも進出し、楽天市場店では水・ソフトドリンクジャンルで1位を獲得した。
 PBの製造会社は黒子の側面が強いが、ECに進出することで、インスタグラムを始めるなど、消費者とのダイレクトコミュニケーションの機会を増やしている。消費者からの反響は、今後の商品開発にも生きる。

 これらの取り組みの実務運営者は、もともと営業事務をしていた派遣社員だという。本人のやる気や適性に応じて、こうしたケースも出てきている。
 社歴や年齢にかかわらず上を目指せるという同社だが、本社で約4割を占める女性社員のキャリアパスには苦慮することもある。

「出産や子育てなどのライフイベントを経ながら、どうキャリアをつないでいくかは、画一的には決められない難しい問題です。私自身も子育てをしていました。お弁当も作りましたし、本来は働きながら家事をするのは男女ともごく普通のことだと思います。当社が扱っているのは生活に身近な飲料であり、生活者目線は大事です。そういう意味では男女比率は半々が理想だと考えています。男性の育休についても、先日取得した人はいますが、まだトライアルの段階であり今後の課題と言えます」

 また、SDGsの取り組みの中で環境問題への対応については——

「飲料を扱っている会社として、容器、包装の環境負荷を低減していく取り組みは重要です。ラベルレス飲料の提供や、将来的にはペットボトルにリサイクル品をどう使っていくかを考えています。プライム市場に上がってから、特に欧米の投資家からそういった問い合わせが増えています。今後はより明確な環境目標を持って取り組んでいく考えです」

上場はMAX生産MAX販売を維持し成長を止めないための手段

 LDCのIPOは2021年12月でわずか2年ほど前のこと。上場市場は東証第二部(2022年の市場区分変更ではスタンダード市場に移行)で、プライム市場への変更は2023年6月と、順調にステップアップしている。

「上場を本格的に準備し始めたのは2019年なので確かに順調です。2021年の時点で東証第一部(現:プライム市場)を目指しましたが、利益基準が足りず東証第二部に決めました。急がなければプライム基準のクリアも見えていましたが、最速での上場を優先しました」

 このタイミングでの上場はなぜなのか。

「2016年頃から上場は考えていましたが、オーナー会社だったので課題も多かったのです。事業承継が落ち着いたタイミングで上場を決断した最大の理由は、資金調達の多様性の確保です。MAX生産MAX販売を標ぼうしていますが、既存工場の生産数量はほぼ上限まできていました。メーカーは生産数量が売上を規定します。増やさないと成長は止まります。そのためには新工場建設やM&Aを進めていかなければなりません。2つ目には社会的信用と知名度向上につながり、優秀な人財確保が進むのではないかという期待がありました。3つ目は当社に投資いただいたファンドの資金回収です」

 実際の上場の効果を聞いた。

「効果が目に見えたのは採用です。上場前はPB商品の製造が売上の6割を占めていたこともあり、当社のブランド力はほとんどない状態でした。IPO後は応募者が増えました。応募者が増えると選定ができるので質も上がります。もとからの社員も上場会社の一員という意識を持ち、変わっていくことができています」

 上場にかかわった社員や役員、会社にとっても上場は準備も含めて成長の機会だったと岡野さんは言う。

 最大の目的だった資金調達面や、M&A案件、工場用地の紹介機会などが増えたことからも上場はプラスに働いている。

事業も上場もスピードが大事、決めたら最速を目指し取り組む

 上場会社としてはまだ走り出したばかり。今後への期待が大きい。

「今後もLDCのビジョンを実現していくことが大前提です。私たちの商品である水、お茶、炭酸水は、ダイナミックな差別化は難しいが、生活様式の変化の中でまだ伸びる余地があります。例えば共働きがもっと増えれば、これまでお茶を煮だして冷やしていた人がペットボトルのお茶を買うようになる。また、健康志向によって無糖飲料は安定的に買われていきます。加えて小売店のPB市場は成長余地があります。アメリカではミネラルウォーターの40%以上がPBですが、日本はまだ10%強に過ぎません。当社の成長戦略はその中でいかに生産能力を高めていけるか。そのために今は来年度上期の稼働を目指して、御殿場工場を建設中です」

 将来的には海外展開も視野に入るが、まずは国内から。今でも需要に対して供給が追いついていないという。日本の中で拠点を増やしていくことが、地方の雇用促進にもつながる。

 最後にこれから上場を目指す起業家へのアドバイスを聞いた。

「上場はゴールではなく通過点です。私たちはスタンダード市場上場後に資金調達で新工場を設立し、プライム市場変更後もまたチャレンジを続けるために資金調達をすると思います。ゴールは見えません」

 さらにスピードが大事と強調する。

「当社は2019年にIPO準備を決めて2021年12月に上場しましたが、このタイミングはIPOが非常に多く、同月に40数社、同じ日に4社上場しています。投資資金に上限がある投資家からは、なぜこんな時期にIPOするのかと言われましたが、私たちは最速にこだわりました。早く上場すれば次の取り組みが早くできます。実際にすぐに新たなM&Aの話がありましたから、事業にスピードは大切です。22年にはウクライナ問題の影響で市場が混乱し、上場できていなかったかもしれません。結果的には良かったと思っています」

 岡野さんの気分転換はサウナだという。スマホから離れてじっくり物事を考えられる時間を楽しむ。工場が全国にあるので、行く先々でもオフタイムにはサウナに行く。それでも考えていることは仕事のこと。目指してなったわけではない社長だが、今でもリーダーではなく働く人たちのサポーターでありたいと思っている。
「なってみるとこういう世界も良かった」という岡野さん。最も熱いサポーターとして、これからも社員やステークホルダーとともに走り続けていく。

(文=吉田香 写真=井田公雄 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2023/10/24

プロフィール

岡野 邦昭(株式会社ライフドリンク カンパニー)プロフィール写真
岡野 邦昭
株式会社ライフドリンク カンパニー 代表取締役社長
1975 年
大阪府生まれ
1997 年
監査法人トーマツ(現:有限責任監査法人トーマツ)入社
2004 年
株式会社ローランドベルガー入社
2008 年
ヴァリアント・パートナーズ株式会社入社
2013 年
株式会社全国通販 取締役就任
2016 年
株式会社全国通販 代表取締役就任
2019 年
株式会社ライフドリンク カンパニー 取締役就任
2020 年
代表取締役社長就任
2021 年
東証第二部に株式上場(2022年4月4日~スタンダード市場)
2023 年
東証プライムに市場変更

会社概要

株式会社ライフドリンク カンパニー
株式会社ライフドリンク カンパニー
  • コード:2585
  • 業種:食料品
  • 上場日:2021/12/21