上場会社トップインタビュー「創」

株式会社ジェイテックコーポレーション
  • コード:3446
  • 業種:金属製品
  • 上場日:2018/02/28
津村 尚史(株式会社ジェイテックコーポレーション)

ものづくりの過程で生まれたニーズからの起業

津村 尚史(株式会社ジェイテックコーポレーション)インタビュー写真

 研究はイノベーションの源であり、研究成果が結実したとき、社会や人を大きく変えていく。近年、スマートフォンでなじみが深いリチウムイオン電池を発明した吉野彰氏がノーベル化学賞を受賞し話題になったが、絶え間ない基礎研究や応用研究がなければ世界は現状維持もかなわず、積年の自然環境への負荷や新種の病気の出現等によって衰退していくだろう。
研究が重要であることは誰もが認めることであっても、目に見える形になるまで注目されにくいのが現実。その地道な努力の積み重ねとなる研究活動に欠かせない装置を開発、製造しているのが株式会社ジェイテックコーポレーションである。例えば細胞の自動培養装置など。いわば縁の下の力持ちだ。
創業した津村尚史さんは、いつどのようなきっかけで、ニッチな分野でオンリーワンでありナンバーワンを目指そうと思ったのだろうと、素朴な疑問が沸いた。

「学生時代に何になりたいといった具体的な夢はなく、大学の研究室の担当教授の紹介で倉敷紡績株式会社に入社しました。大学は精密工学科だったので、紡績会社への入社は珍しいことでしたが、本社や技術研究所を訪問したときに何か新しいことができるのではないかと感じたのが動機です。化学系の人材が多い会社で、ものづくりをする社員が私しかいませんでした。入社して5年目くらいのときには、4、5人の部下を抱え、システムの開発・製造から営業まで一貫して携わっていました。その時代に独立する土壌は育まれたと思います。その後転職し、新たな技術開発の仕事も経験する中で様々な装置を使いますが、日本製はほとんどありませんでした。そう考えると、研究開発を積み重ねる中でニーズに気づいたと言えるかもしれません」

 自ら湧き出る興味やニーズ。自社で何か新しい技術を持って、社会に貢献し、会社を育てていきたい。その静かな内に秘めた思いが3社目の転職、否、独立へと駆り立てた。1993年のことである。「ジェイテック」という社名に込めたのは、日本の技術を代表するような企業になりたいという志によるものだ。

シーズとニーズが重なり2つの事業の柱が確立

津村 尚史(株式会社ジェイテックコーポレーション)インタビュー写真

 研究に必要な装置をベンチャー1社で開発するのは困難なこと。ユーザーである研究者(大学や研究機関)や研究開発を推進する企業と連携したほうがシーズとニーズが一体となり効率的でもある。
創業当初から取り組んだのは、住友電気工業株式会社と協働での自動培養装置の開発。抗体試薬を探索するための全自動型の細胞培養装置である。これが「ライフサイエンス事業」のコア技術として進化している。当初主流だった抗体試薬を開発するという目的から、再生医療やiPS細胞の研究開発に役立つ培養装置へと研究開発のニーズに合わせて装置の研究を重ねた。

「大型の自動培養装置は高額で、大手製薬メーカーの研究機関等で活用されていましたが、それではターゲットが限定されます。iPS細の出現により、大学の研究室、中小の研究機関や企業でも使ってもらえるような手軽で小型化した汎用的な製品開発に着手し、今では商品展開の幅を広げています」

「また、装置を作るだけではなく、実際の再生医療を実現するためには補完的な作業が必要不可欠であると感じ、横浜市立大学医学部と積極的に連携し、世界で初めての弾性軟骨の再生医療の臨床研究を推進しており、さらに大阪大学医学部の心臓血管外科とはiPS細胞を使った心臓シートの培養技術の開発にも取り組んでいます」

 もう一つの事業の柱である高精度X線ミラーの製品化を実現した「オプティカル事業」は、2005年大阪大学と理化学研究所の研究成果の実用化から始まった。ミラー表面の形状に対しナノメートル単位の精度を実現し、これまでにない優れた放射光X線の集光特性を有する製品が完成した。放射光利用による研究成果は、例えば微小たんぱく質の構造解析やはやぶさ持ち帰りの小惑星イトカワの微粒子解析などの基礎研究だけでなく、医薬学、エレクトロニクス、マテリアル、食品、美容など、多岐にわたる産業分野での商品開発のために研究促進に役立っている。

産学連携でオンリーワン、ナンバーワン製品を開発

ライフサイエンス事業、オプティカル事業ともに同社の強みは、ナンバーワンあるいはオンリーワンを目指し、実現していることにある。いずれも主に産学連携で研究を重ねていることも、単に研究効率の高さだけではなく、優れた研究職人材の活用という点で特筆に値する。

「ライフサイエンス事業の自動培養装置そのものはいわばどこでも製造可能なものです。しかし2007年ごろからつくばの産業技術総合研究所(産総研)が持つ浮遊培養技術(細胞を浮かせながら培養する技術)の共同開発を推進し、横浜市立大学や大阪大学と取り組む再生医療のキーテクノロジーとして活用しています。これは当社の独自の培養技術です」

ライフサイエンス事業関連機器

「オプティカル事業では、大阪大学と理化学研究所が発表した放射光を絞る技術が国際学会で世界一と評価され、その技術を使ったミラーがグローバルレベルのニーズに広がっていきました。この技術は大阪大学の独自のナノ加工技術EEM(Elastic Emission Machining)とナノ計測技術RADSI/MSI(Relative Angle Determinable Stitching Interferometry / Micro Stitching Interferometry)ですが、当社が実用化し、世界の研究機関や企業に採用されました。この製品については、国内外に競合は何社かありますが、現在では当社がトップシェアとなっています」

オプティカル事業の各種X線光学素子

 とはいえ、1993年の創業当初は苦労も多かったと、津村さんは語る。

「理想と現実は違い、最初は赤字にしてはだめだと、食べていくために様々な仕事をしました。自社で主体的に研究開発をしたいという思いがありながらも、企業からの委託開発が主たる収入源で、事業資金としては大阪中小企業投資育成や『ひょうご活性化ファンド』の出資を受けたこともあります。理想の追求がかない始めたのは、独立して10年後以降です」

ビジネス成功の鍵となる絶妙なバランスと好循環

津村 尚史(株式会社ジェイテックコーポレーション)インタビュー写真

 世界最先端のオンリーワン、ナンバーワンの技術を追求していくためには、産学連携を支えていく内側の人材確保も重要な課題と言える。

「現在、16人の社員が博士号を持っています。彼らが当社の技術に魅力を感じて集まってきてくれました。特にオプティカル分野は新しい技術で、ベテランは存在しません。極端な例ですが、ライフサイエンス分野のドクターが当社でミラーを作っています。研究分野は異なっても、基礎的な技術力があり、研究に必要な探究心が備わっているので、すぐに吸収できるようです。また大学と密接に連携して仕事をしていますので、ポスドクの登用面でも多少なりとも貢献できているのではないかと思います」

 人材面に限らず、同社を知るうえで産学連携は重要なスキームだが、メリット・デメリットはあるのだろうか。

「当社は創業の数年後から産学連携に継続して取り組んでいます。それでもスタートから10年近くを経てやっと一つ成功したレベルで、事業化は容易ではありません。成否を分けるポイントは、大学と企業が対等に渡り合える関係であること。単に資金を出すだけではだめで、われわれもテーマを明確に持ち、協働していく意識が必須です。大学と企業では目指すベクトルが異なります。大学は研究を究め、企業は利益を求める。そうした立場の違いを乗り越えて、お互いを理解しなければうまくいきません」

 同社と大学との関係は、一般的な産学連携の関係とは少し様相が違う。企業が大学の研究費を投資しつつ、自社の製品化に向けて連携して取り組む点は同じだが、研究に使用する装置を購入してもらうという点では大学は重要な顧客でもある。良好な関係性を築き、ビジネスでの成功を重ねることで、自社製品が売れ、プレゼンスも上がる。そこに至るまで苦労を重ねながらも、連携を継続できている背景には、絶妙なバランスと好循環があるようだ。

上場は世界中との取引に不可欠な信用力向上に寄与

津村 尚史(株式会社ジェイテックコーポレーション)インタビュー写真

 同社がマザーズに上場する2018年まで、創業から25年の時を経ている。様々な企業の意思決定や事情があるなか、早いか遅いかを問うのはナンセンスだが、25年間非上場で成果を上げながら、上場を目指す決意をした理由は気になる。

「正直、創業時上場は頭にありませんでした。上場を目指すきっかけは、2005年から取り組んできた放射光ミラーが2015年くらいから世界的に評価されてきたことです。顧客対象は世界の研究機関、主要研究機関は国家直轄の国も多いので、要するに顧客は国なんです。製品が認められても取引に至るには、社会的な信用力の向上は不可欠でした。ライフサイエンス事業にしても、知名度も資金調達も必要です。資金は足元では設備投資に、中長期的にはM&Aも視野に入れています。上場を考えたときに需要が伸び、売上増にもつながっていたので、障害はあまりありませんでした。ただ、上場準備期間と大企業の不祥事が取りざたされた時期が重なったことで、監査が厳格化して想定より少し時間がかかりました。とはいえ、私はそれをマイナスにはとらえていません」

 却って体制を強化する機会ができてよかったようだ。また、上場による知名度向上で、人材確保や新しい取引先の開拓にも寄与していると津村さんは言う。

「目に見えないが、社員の自覚も出てきていると感じます。これまでは研究室の延長線上という側面も否めなかったのですが、意識の変化が芽生えてきています。一方で、上場にあたっては、技術者以外の管理部門の経験者の採用が急務で、幸い優秀な方が集まったので、社員の層が厚くなったと思います。また、上場前の研究者・技術者主体の組織では難しかった、企業として同じベクトルに向かう一体感のようなものも出てきました」

 上場から約2年半を経て、2020年9月に市場第一部へのステップアップを実現した。

「コロナ禍の影響でIRの活動がまだ十分にできていませんが、事業がわかりづらいのでIRでは誰にでもわかりやすく技術背景や社会的な効果を説明するよう努力しています。特に一般投資家向けにはスモールミーティングを重ねるなど、一方通行ではないコミュニケーションを心がけています」

未来をひらく最先端研究技術開発に欠かせない装置

津村 尚史(株式会社ジェイテックコーポレーション)インタビュー写真

 これから上場を目指す方へのアドバイスも聞いた。

「ものづくり企業として会社をおこすなら、独立時点である程度の仕事がないと経営の維持が難しいと思います。研究開発だけでは売上が立ちません。上場にあたっては、さらなる需要がないとできないので、常に"今"だけでなく、その先の展開を頭の中で描きながらリスクも想定していることが必要です。当社は2つの事業が柱になっています。どちらかが落ち込んだときの補完や、良いときにはシナジーが出せるので、そうしたことも考えておいたほうがいいかもしれません」

 今後はその2つの事業「ライフサイエンス事業」と「オプティカル事業」を柱に、中期3カ年で5つのテーマを掲げているという。
 半導体分野への進出を目指す「次世代の半導体の製造技術である極端紫外線露光装置等の関連機器向け光学素子」「半導体用マスク基板へのナノ加工技術の適用」の展開、「衛星搭載型Ⅹ線の光学分野への応用」「水晶振動子ウェハの量産加工システム」「再生医療に関する支援事業、医療機器事業」への進出がこの5つにあたる。

「平たく言えば、スマート社会に欠かせない高精度な半導体、高集積化を図るための製造装置の中に私たちの技術をより多くとり入れてもらいたいということです。水晶振動子とは時計やカメラに搭載される時計代わりになるもの、デジタル技術が進化すれば、自動運転等の開発などで高精度な水晶振動子へのニーズも高まります。再生医療については、患者の生活の質の向上につながり、社会に直接貢献できると考えています」

 生活や人そのものの未来を変える高度に進化する技術の中に、自分たちが持つ技術を組み入れてもらうことにまい進するとともに、再生医療支援のように直接人の人生に貢献できるアウトプットもしていきたいと夢を語る。

 特別な趣味がなくストレス解消がやや苦手。
「東証第一部上場はゴールではなく、中期計画を軌道に乗せることを目指しているからオフはないんです」と話す津村さん。
 その視線の先にある未来を創る様々な先端技術の開発に、同社が誇るオンリーワン技術が不可欠であるならば、目に見えなくてもかけがえのない価値がある。社会へのさらなる貢献を目指す夢の実現にも期待したい。

(文=吉田香 写真=吉田三郎 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2020/12/03

プロフィール

津村 尚史(株式会社ジェイテックコーポレーション)インタビュー写真
津村 尚史
株式会社ジェイテックコーポレーション 代表取締役社長
1957 年
大阪府生まれ
1981 年
倉敷紡績株式会社入社
1991 年
株式会社片岡実業入社
1993 年
株式会社ジェイテック設立
(2016年現在の社名に商号変更)
2018 年
東京証券取引所 マザーズ市場へ株式上場
2020 年
東京証券取引所 市場第一部に市場変更

会社概要

株式会社ジェイテックコーポレーション
株式会社ジェイテックコーポレーション
  • コード:3446
  • 業種:金属製品
  • 上場日:2018/02/28