上場会社トップインタビュー「創」

株式会社アクシージア
  • コード:4936
  • 業種:化学
  • 上場日:2021/02/18
段卓(アクシージア)

中国で人気のMade in Japanブランド化粧品

段卓(アクシージア)

 『アクシージア』という化粧品メーカーをご存知だろうか。中国のEC市場で、高・中価格帯のMade in Japan のブランドとして人気を集めている。

 人口14億人の中国の化粧品市場は、アメリカに次ぐ世界第2位の規模だ。2021年は約811億ドル(約11.5兆円/1ドル142円換算)に達し、年10%の成長率で伸びている。ちなみに日本市場は約4.1兆円で年々減少傾向。化粧品の企画、製造、販売を行う株式会社アクシージアは、この中国市場をメインターゲットに急成長した。コロナ禍真っ只中の2021年2月に東証マザーズ(現グロース)に上場。2年後の2023年2月に東証プライム市場へ移行した。

 同社の一番の特徴は、代表取締役の段卓(だんたく)さんが中国出身であることだ。中国出身者だから中国市場に狙いをつけて当たった、と言えば確かにその通りだが、異国の地で会社を上場させるのは並大抵のことではない。そこには大きな努力と、知恵と、先見の明があったに違いない。日本で上場するまで、どういう経緯があったのか伺った。

起業家スピリットが芽生えた厦門(アモイ)大学

段卓(アクシージア)

 段さんは中国北部、大連の出身である。ご両親は医師だったが、段さんが幼い頃、文化大革命(1966年-1976年)の影響で地方に移住。農村で12、3歳までのんびりと育った。しかし大学進学を考えると農村の環境は厳しい。当時の中国の大学進学率は約5%。レベルの高い大学はさらに狭き門だ。そこで段さんは、中学、高校は大連や瀋陽に住む祖父母のもとで、「辛い思い出しかない」ほど勉強した。

 段さんが選んだ大学は、福建省の厦門(アモイ)大学。中国東南部の海外沿いに位置する国際都市、廈門市にあり、風光明媚な環境で、中国で最も美しいキャンパスの一つと称されている。また史上初の華僑が創設した大学としても有名だ。

「もともと海が好きで、船長になりたかったんです。中国では山東海洋大学が一番ですが、とても競争が激しいので、高校の先生から厦門大学の海洋科学を勧められました。だけど希望の学部には行けず、物理学部に入って専門は半導体でした。卒業論文は太陽光パネルです」

 物理はあまり好きではなかったそうだが、大いにキャンパスライフを楽しんだ。中国南部は北部に比べてビジネスマインドが強いそうだ。厦門大学は多くの留学生を受け入れており、友人は皆、事業意欲が強かった。段さんも次第に起業してみたいと思うようになっていった。

「みんな海外に留学したがっていました。行き先は先進国のアメリカや日本。僕は親戚のコネクションがあったので日本に来ました。最初の1年半は日本語を学んで、それから沖縄国際大学に入り、卒業後は琉球大学の大学院で経営学を学びました」

男性3人でエステサロンを起業

段卓(アクシージア)

 初めての就職は東京でシステムエンジニアとして採用された。日本人ばかりのアウエー感の中で、とにかく生活を安定させようと頑張った。4年ほど経った頃、琉球大学の時の中国の友人2人が、それぞれ会社を作って独立したと聞いた。これに触発されて「そろそろ僕も」と思い始める。でも「何をやろう?」と考えていたところに、エステティックサロンを始める話があると友人から声がかかった。エンジニアから一転して女性を綺麗にするB to Cの事業。「面白そうだな」と独立を決めた。

「サロンは2002年から男性3人で始めました。私は理系出身ですから数字に強い。もう一人は広告代理店出身で広告に強い。3人目は商社出身で物を安く購入することに強い。従業員は全員女性でお客さんも女性だから、私は店に入れませんでした。逆にそれが良かった。もし店舗に入ったら、業務が気になって事業展開を考える余裕がなかったでしょう。私は店に入らないことで、店舗拡大に専念できました。サロンの延長線上で脱毛サロン、痩身と展開していきました」

SARS、爆買い、EC法、時代の変化を味方に成長

 2011年、化粧品メーカーの協力を得て自社商品の開発を始めた。化粧品ブランド『アクシージア(AXXZIA)』の誕生だ。自社サロンで使用しながら、日本と中国で販売も開始。しかし、知名度がないのでさっぱり売れない。中国でぼちぼちといったところだった。

 潮目が変わったのが2016年。SARSの影響で中国では韓国系化粧品が売れなくなり、代わりに日本の高級化粧品が中国女性の気持ちを掴み始めた。ちょうど購買力が付いてきたタイミングで、少し高くてもMade in Japanを求めるようになったのだ。アクシージアの売上も一気に10倍に伸びた。

「日本と中国、同時に販売していたのですが、日本では売れなかったんです。日本ではMade in Japanは当たり前だから、御社は何で高級なの?というところの説明が難しい。中国では、いい商品ですよ、Made in Japanの高級ブランドですよと宣伝すると売れました。それならば伸ばせるところを伸ばそうと、中国市場をメインターゲットに考えるようになりました」

 中国人をターゲットとした商品開発を行い、若々しさをサポートする美容ドリンク『AGドリンク』と目元に貼る『エッセンスシート』のヒーロープロダクト化に成功。これがアクシージアの知名度を一気に上げた。

 そしてターニングポイントとなったのが2019年。中国人の観光客の爆買いが話題になった時代だ。日本で購入した商品は中国で転売されていたが、中国のEC法成立でこのビジネスが成り立たなくなった。国内化粧品メーカーの売上は激減し、アクシージアもビジネスに大きな影響があった。これはまずいと思っていた矢先、アリババグループの越境ECサイトへ出店しないかと声がかかった。

「当社が選ばれて、アリババのTmallに旗艦店を出店することができました。『AGドリンク』と『エッセンスシート』で知名度が上がっていたので、それが評価されたのだと思います。Tmallへの出店をきっかけに、EC市場で積極的に宣伝して行く方針に切り替えました」

ECチャネルを活用してマーケティング強化

段卓(アクシージア)

 Tmallに旗艦店を出してからは快進撃だ。当時、中国の化粧品販売の7割はTmallが占めていた。Tmallとの戦略的連携で消費者ニーズをタイムリーに入手することができたので、商品開発情報はすべて中国で集めるようになった。

「中国の代理店や販売先のサロンからも情報を集めますが、中心になるのはWe Chat(ウィーチャット)などのSNSです。そこで何がいい、何が欲しいという情報を集めて、今度はTmallのデータベースと照合する。それで次はこういうものを作りましょうと決める。とにかく速いです。作る段階から、中国に輸出する前提で配合成分もチェックしますから、完成したらテストマーケティングをして同時に中国当局にNMPA(※)を申請します」

 EC販売チャネルも「Taobao(タオバオ)」や「Douyin(ドウィン)」に拡大し、ライブコマースも毎日配信。定期的なキャンペーンや抽選イベントなど中国市場にあった販促をフルメニューで展開して市場ニーズに応えている。膨大な情報をコントロールしながら、開発から販売まで一気に最適化していくスピードと柔軟性。これが中国ビジネスのすごさだ。

※ 中国当局NMPA (国家食品薬品監督管理総局)の登録手続。中国で販売する医療機器、医薬品、化粧品の審査認可を行う。

日本人とっては意外な上場を目指した理由

段卓(アクシージア)

 段さんが上場を考え始めたのは2018年。中国で『AGドリンク』と『エッセンスシート』のヒーロープロダクト化が成功した頃だ。

「実は上場は、そんなに考えていなかったんです。なぜ上場するのかわからない。それでシンガポールで華僑の経営者に会った時、『なぜ上場する必要がありますか?』と聞きました。彼は『大きくしたいかどうかだ。ただ利益を出してゆっくりしたいなら上場しなくていい』と言いました。これが刺激になった。20億円の企業が100億円を目指しましょうと」

 大きくして何がしたいと思ったのですか? と問うと、「それがないんです」と即答。「貪欲に大きくしたかった」と笑った。

 何と率直な答えだろう。日本人なら大義の一つも言いたくなるところだ。「ただ大きくしたい」という気持ちは、子供が海を見つめて「船長になりたい」と思う気持ちと似ているのではないか。これがベンチャースピリットというものだろう。
 段さんに上場した時の気持ちも聞いてみた。

「実は上場の実感はなかったんです。それよりも、株価が下がるからもっと成長しないとダメだと、これが一番でした。とにかく頑張って成績を出そう、M&Aも積極的にやろうと、去年4月に化粧品・医薬部外品製造卸売販売、OEM事業を行うユイット・ラボラトリーズを子会社化しました。これはとても大きな経験でした。
 やはり上場したことで社会的信用がつきますので、銀行の融資など資金調達もスムーズになりました。M&Aの情報も集まってきます。提携アライアンスも大手企業と話ができるようになりました。上場していなかったら大手企業に相手にされないけれども、上場してからは中国の販売に強い会社と見込まれて、提携の話も進んでいます。本当に上場してからが成長だと、成長のチャンスだと感じています。我々自身の成長と同時にM&Aを通して拡大もして、もっとスピードを上げていきたいです」

起業家へのメッセージ

段卓(アクシージア)

 アフターコロナの世界ではIT化、DX化が進み、世界が一段と近くなった。これから外国人の起業や上場も増えてくるだろう。外国人が日本で起業する際に何かデメリットはあるだろうか。

「ないですね。全くないです。日本はグローバル化のレベルが非常に高いと思います。私は20年ほど日本でビジネスを行なっていて、邪魔されたことは一度もなく、とてもフェアです。他の国、特にアジアでは外国人が起業して上場するのは難しいのではないかと思います。
 僕の周りに外国人経営者はたくさんいて、みんな本国の資源や人脈をうまく組み合わせてビジネスを行なっています。僕はエステサロンを経営していたときは、美容機器を中国から日本の1/10の値段で仕入れていましたし、いまは日本製のものを中国に販売しています。だから、ビジネスがやりやすいというメリットがありますよね。ただ上場に関しては、みんな難しいと思ってチャレンジしていないかもしれないです。
 だから目標を大きく持って、どんどんチャレンジしていこうと伝えたいですね。アメリカの有名な理論で、『友人や家族ではなく、よく知らない人の一言で人生は変わる』というものがあります。僕も、シンガポールで出会った先輩から言われた一言で変わりました。もしかしたら、僕の一言で人生が変わる人がいるかもしれない。そうのが、いいなと思います。まさに一期一会」

 「人生は計画的じゃない」と段さんは語る。厦門大学に行かなかったら起業していなかったかもしれない。たまたま親戚がいたので日本に来た。エステビジネスとの出会い、シンガポールでの一言、どれも予定されたものではなかった。

「コロナが終わって3年ぶりに香港と広州に行ったんです。そこで大学の後輩に会って、彼も化粧品会社を経営しているのですが、成長がすごかった。6年間で売上400億円と聞いてびっくりしました。帰ってきて、よし、やろう!と(笑)。そういう刺激を常に受けたい。
 社内では『我々はベンチャー企業だ』と伝えています。スピーディに動く、新しいことをどんどんやる、前に進もう、日本、中国、こだわらない、海外に出て行こうと。いま我々の一番大きな市場が中国ですから、従業員の3割ぐらいが中国出身ですけれど、目指すところはグローバル企業です。東南アジアなどいろいろな国の人材を入れて、世界で勝負したい。日本はもったいないですよ。化粧品の場合は、ただきれいな商品ではなくてブランドなんです。フランスやイタリアのブランドと同じで、日本の文化につながるもの。だから売れる。僕はこの日本ブランドをもっと世界に広めて、世界で通用するブランドにしていきたい」

 日本の価値を日本人以上に感じて、グローバルビジネスに転換していく。そういう外国人経営者が増えてくると、世界での日本のプレゼンスはもっと上がっていくだろう。それは日本企業にも観光などのインバウンドにもプラスの効果を与える。ビジネスの様々なシーンでダイバーシティが奨励されているが、経営者のダイバーシティも大歓迎だ。日本人とは異なるしなやかさと強さを持つ段さんの Made in Japan に期待したい!

(文=江川裕子 写真=高橋慎一 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2023/06/07

プロフィール

段卓(アクシージア)
段 卓
株式会社アクシージア 代表取締役 
1966 年
中国生まれ
1989 年
厦門大学(中国)卒業
1990 年
沖縄に留学
1996 年
沖縄国際大学卒業
1998 年
琉球大学大学院修了
1998 年
株式会社エイジスにエンジニアとして入社
2002 年
エステサロン事業を共同経営者として起業
2011 年
株式会社アクシージアを設立。代表取締役に就任
2021 年
東証マザーズ(現グロース)に上場
2023 年
東証プライムに市場変更

会社概要

アクシージア
株式会社アクシージア
  • コード:4936
  • 業種:化学
  • 上場日:2021/02/18