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上場会社トップインタビュー「創」

AnyMind Group株式会社
  • コード:5027
  • 業種:情報・通信業
  • 上場日:2023/03/29
AnyMind Group株式会社

広大なアジアのネット空間を舞台に革命を起こす

AnyMind Group株式会社

 インターネット広告の市場が近年、右肩上がりで拡張している状況は周知の通りだ。電通が発表した「2023年 日本の広告費」によれば総広告費は前年比103.0%増の7兆3,167億円と過去最高を更新。このうちインターネット広告費は3兆3,330億円(前年比107.8%)となり、広告費全体の約45.5%を占めるほどになっている。2021年にインターネット広告費がマスコミ4媒体(TV、新聞、雑誌、ラジオ)の広告費を上回ったことからも、広告宣伝の主戦場はもはやネット空間だと言っていい時代に突入している。

 2023年3月、東京証券取引所グロース市場に新規上場したAnyMind Group株式会社は、そんな成長領域で事業を展開する企業だ。その快進撃は2016年、シンガポールで事業をスタートした時から始まり、同年のうちにタイ、インドネシア、ベトナム、台湾において立て続けに現地法人を設立。その後もカンボジア、日本、中国、香港など、アジアにおいて次々と現地法人を設立しながら、事業領域の拡大を続けている。

 同社の事業は、テクノロジーを駆使したブランド企業や、インフルエンサーなどに対する収益化の支援だ。現在の事業領域は大きく2つに分かれ、その1つがEC及びD2C領域におけるブランドの設計、生産や物流管理、マーケティング、ECサイトの構築までをワンストップで支援する「ブランドコマース事業」。

 もう1つがWebメディアやアプリを運営するパブリッシャー、クリエイター向けに自社プラットフォームを提供し、収益化やブランドの成長を支援する「パートナーグロース事業」だ。たとえばタイ在住の強力なインフルエンサーがポストする投稿に対し、大きな効果が見込めるクライアントを探し出して、その広告を掲出する。あるいは、シンガポールのWebメディアに対し、先端的マーケティングテクノロジーを駆使したプログラマティック広告の掲載自動化を支援することでその企業の効率的な収益獲得と省人化、メディア自体の成長を目指す。

 こうした事業を可能とするのは、AnyMind Groupが培ってきた高度なアドテク(広告配信の効率向上を実現する技術)と、現在では15ヵ国・地域にまで広がったアジアにおける壮大なネットワークである。2024年第2四半期の実績は売上収益225億3,100万円(前年同期比57.6%増)、売上総利益83億6,100万円(前年同期比53.5%増)と右肩上がりの成長が順調に継続。創業から8年でこのメガベンチャーを築き上げた十河さんは、事業開始時の思いをこう振り返る。

「シンガポールで事業を開始する以前から、インターネットの世界でどんな事業領域が中心となっていくかを入念にリサーチしていました。その頃、世界的なSNSの盛り上がりを見て、インフルエンサーのような一個人がメディアになる時代が来るなと感じていました。一方で私は社会に出た直後からアドテクの可能性に魅せられていたのですが、インフルエンサー、ブランドと消費者を広告でつなぐ最適な仕組みは、当時ありませんでした。ならば、その広告と、親和性の高い相手同士をマッチングさせるプラットフォームを作れば、革命が起きるんじゃないかと思ったんです。アジア各地で展開して多様なプロダクトを開発し、サービスをクロスセールしていくイメージも当初からありました。起業するからには大きいことがやりたい、社会にインパクトを与えたいと考えていたので、その観点で見ると現状は順調に歩めているとあらためて感じますね」

起業までに構築した成長のビジョン

AnyMind Group株式会社

 祖父は父方も母方も事業をしていたこともあり、幼い頃から社長業への憧れを抱いていたという十河さん。ソフトバンクの孫正義氏やライブドアの堀江貴文氏ら、情報通信の世界から先鋭的な起業家たちが登場してくると、高校生の十河さんはインターネットの業界に強い興味を覚えるようになっていった。

「大学入学後はインターネットに関わるベンチャー企業でインターンを経験しました。社長のすぐそばで働く機会に恵まれたこともあって、インターネットの世界でどうビジネスをつくっていくのかという部分を学ぶことができました。さらに経験を積むために大学卒業後もインターネット関係の企業に就職。そこで盛り上がりつつあったアドテクの世界に浸かり、その面白さや可能性に惹かれたんです。当時はGoogleアドセンス(広告がクリックされた回数に応じてサイト管理者へ入金されるシステム)が日本でもようやく利用されるようになったタイミングでしたが、広告を軸としたインターネット上のビジネスモデルには強く共感するものがありました」

 大学卒業後、アドテクの会社に入社した十河さんは、配属された営業部で熱心に仕事に取り組んだ。そして、間もなく社内での単月個人粗利史上最高額を更新するという偉業を成し遂げた。当然、会社に一目置かれ、2年目にはベトナムで子会社を立ち上げるという、現在につながる業務に抜擢されることになる。

「学生の頃、アジアをバックパックで巡っていた時、若い人たちがものすごく多い印象を受けました。実際、インドネシアの平均年齢は29歳だそうです。現地の活力を肌で感じて、こうした国々におけるインターネットの滞在時間は飛躍的に伸びていくだろうと確信しました。社会人としてアジアで営業活動をする際も、オフラインメディアの接触時間はどんどん減っていくとか、アメリカや日本ではネット上の広告ビジネスが非常に伸びてきているという話をすると、理解を得られることが多かったです」

 結局、20代半ばまでにアジア6ヶ国で現地法人立ち上げ、そのCEOに就任して意思決定や事業運営を行うことになった。いよいよ自ら起業する具体的な道筋が固まっていく。

「入社以来たいへん貴重な経験をさせていただいたのですが、営業拠点を増やしていくというプロセスの中で、プロダクトの開発も自らの手で実現したいという気持ちが膨らんでいきました。このように自然な流れで起業へと向かっていったんです」

 そして2016年、十河さんはシンガポールでAdAsia Holdings(2018年にAnyMind Groupへ改称)を創業。広告主向けのデジタルツール、インフルエンサーマーケティングプラットフォームなどの提供をスタートしつつ、同年のうちにシンガポールを含めアジア5ヶ国での現地法人設立を果たす。

「大手企業向けのプロダクト提供を続けていると、次のニーズが察知できるようになります。こうして常にマーケットから情報をインプットして、徐々にプロダクトを増やしていきました。ですからeコマースを支援するプロダクトの提供も必然でしたし、ブランド企業の物流を支援するプロダクトにしても、ニーズがあるからこそ開発、提供を始めました。このようにマーケットからニーズを汲み取ってプロダクトを増やしていこうとか、拠点となる国も増やしていこうということは、起業前から考えていたのでその通り、実行できたという感覚ですね」

驚異的な成長の背景に、アグレッシブなM&Aあり

AnyMind Group株式会社

 創業から2年余りでアジア10ヶ国以上に現地法人を有するグループへと成長したAnyMind Group。各国のチーム間でクロスボーダーに連携しながら、広告主への営業やインフルエンサーのリサーチなどを大きなスケールで展開できたことも成長を加速させた。

「創業からグローバルのマーケットを見据えて開発を続けてきたので、プロダクトも世界統一のモデルなんです。ですから各国で一斉展開もしやすく、管理やアップデートもスピーディ。現在は開発拠点が東京、タイ、ベトナム、インドの4ヶ所にあり、エンジニアは好きな拠点で働くことができます。また、手掛けたプロダクトが世界中で利用されることも、エンジニアにとっては魅力ですから、アジアだけでなく欧州からも優秀なエンジニアが集まってきます」

 もうひとつ、AnyMind Groupが急速に成長を遂げた背景には、戦略的かつ積極的なM&Aの実現がある。同社は上場前の段階で、7社へのM&Aを行うことでグループとして足りないピースを確実に補い、強固な運営基盤をアジアという広大なフィールドで築き上げてきたのだ。

「Google、メタ、アリババ、テンセントなど世界的な大企業はどこもM&Aを有効に活用していますよね。ですから私も、社会にインパクトを与えるようなグループ企業を構築するには、当然、M&Aをしっかり活用していかなければならないと考えていたんです。意識したのは買収後に、創業者がいかにオーナーシップを維持していけるのかという点。つまり欲しい部分だけ買って、その企業の創業者は去ってくださいということではなく、買収後はそのまま現地法人のヘッドを務めていただくように心がけました。創業者の方のモチベーションを損なわないようストックオプションなども考慮しつつ、マネジメントをお任せするのが基本です。

 最終的には価格というか、双方が望むバリュエーションのギャップをいかに埋めていくかなんですが、そのためには『シナジーを生みます』といった曖昧な説得ではなく、数字と論理でしっかりとM&A後の双方のメリットを説明することが大切です。上場前に7社、その後に2社のM&Aを実現していますが、やはり創業者にマネジメントを継続していただくのはとても合理的ですし、結果としてグループの基盤は間違いなく強固かつ広域なものとなりました。M&Aは今後も弊社の重要な成長戦略であり、できれば加速していきたいと思います」

 買収の際、説得材料としてよく用いるのが「成長市場」というフレーズ。AnyMind Groupのビジネスを展開する市場は今後、ますます拡張していくことを強調し、相手のモチベーションを向上させるのだと十河さんは話す。

「社員の皆さんに対しても同様ですが、我々は成長市場で事業を行っているので、未来に対してワクワクしながら取り組んでほしいという私の思いをしばしば伝えています。未来は明るいと信じるマインドセットこそが、企業にとって最も大切な成長エンジンですね」

世界という舞台で、競争に勝つ覚悟はあるか

AnyMind Group株式会社

 起業当初から明確に上場を意識していたという十河さん。あらためて上場することの意義や効果について聞いた。

「必要な資金は未上場の状態でも調達できましたが、今後の会社としての成長を考え、必然の通過点として上場は創業時から視野に入れていました。実際、上場してみると、東南アジアにおけるビジネスにおいて取引先から非常にポジティブに捉えられていると感じます。各国大企業とのパートナーシップがより結びやすくなりましたし、採用面でも以前にも増して優秀な人材を獲得できるようになりました。」

 同社は広くアジアに事業展開をされているところ、海外の取引所への上場も検討されたのか聞いた。

「事業をグローバルに展開している中で東証以外の市場も選択肢にはありましたが、東証は世界的に見ても機関投資家・個人とも投資家の質が非常に高く、加えて自分自身が日本人であることもあり、応援してくれる株主がより多くいるのではないかと考えました。アジアを中心に拠点や事業を展開していることもあり、東証はとても自社に合う市場と判断しました。上場審査が厳しいという話も聞いてはいたものの、それを通じてガバナンス体制やコンプライアンス面でのさらなる成長ができるのではないかとも考えました。」

 同社は外国籍企業であったところ、コーポレートインバーションし、日本籍企業として東証に上場した理由を聞いた。

「上場後の株式の流動性を重要視したためです。外国籍のままで上場できるのであれば良かったのですが、これまでの東証上場外国籍銘柄における上場後の取引ボリュームを鑑みると、外国籍のままの上場はリスクが大きいと考えました。」

 上場企業グループのトップとして精神面ではどう変化したのかについて聞くと、こんな答えが返ってくる。

「基本的には変わっていないと思いますが、毎日、市場から評価される現実をどちらかといえば楽しんでいますね。一方で、情報開示については丁寧なコミュニケーションを心がけようとあらためて考えています。我々は、アジア15ヵ国でビジネスを展開していますし、事業も複数ありますので、外側から見ると複雑性の高い企業グループです。なので、どれだけ数値が良好でも、可能な限り解像度の高い情報開示を行わなければなりません。結果だけをお知らせするのではなく、この成長はどのような理由で続いていくのか、アジア全域の市場がどれだけのポテンシャルを秘めているか、また、各国の地政学的リスクなどについてもしっかりご説明する必要があるでしょう。

 個人投資家の方々にも、四半期ごとにいただいている質問に対してきちんと回答案をお出しするといったことで、きめ細かいコミュニケーションを実践しています。いずれにしても、論理的な説明を行いながら、私自身がAnyMind Groupの成長を心底、確信しているという事実を、ステークホルダーの皆さんに伝えていくことが非常に重要なのだと考えています」

 創業から7年でグロース市場への新規上場を果たした十河さん。思い切ったM&Aやスピーディなグローバル展開など数々の実績を踏まえ、成長企業を目指す若手起業家に対してメッセージをもらった。

「あらためて思うのは、上場は企業の成長において最もレバレッジをかけやすいタイミングだということです。ですからこれを大きなチャンスとするためにも、上場後にどうやって企業を成長させていくのかという具体的なストーリー、明確なビジョンをしっかり固めておくことが大切です。それと、ある種の覚悟です。上場すれば、場合によってはNASDAQに上場している大企業と比較されることもあるわけで、そのような競合他社に勝っていけるのか、それだけの覚悟が本当にあるのかを自分に問う必要がありますね」

企業の成長にすべてを捧げて

AnyMind Group株式会社

「今後もインフルエンサーは世界中で増え続けると思っています。ただ、プラットフォーム同士の戦いは激化していくので、インフルエンサー個人の資質や影響力に加え、どのSNSが優勢になっていくのか、どの国ではどんなプラットフォームが強いのかという部分の見極めは、今後、より求められるようになっていくでしょう。

 プラットフォームの分析やインフルエンサー、ブランド企業の効率的な収益化は、すべて収集したデータの利活用によって生まれます。要は、AIとデータをいかに上手に活用できるか、構築したスキームをどれだけ横展開できるか、また新たな事業領域で活用できるかが、我々の成長において重要なポイントとなってくるでしょう」

 ビジネスの舞台とする業界の動向や、同社の成長について問いかける度に、明快に即答してくれる十河さん。つねに情報収集を行い、思考を整理し、数々の決断を迫られる毎日はどれだけストレスフルなのだろう。その日常や、心身を整える秘訣について聞いてみる。

「先週から杭州、上海、シンガポールと巡って、一昨日帰国しました。そしてまた今晩、バンコクへ飛ぶんです。このような毎日なので、精神的には疲労がなくても、体力的な課題は常にあります。ですから趣味というかルーティンは筋トレでしょうか(笑)。あとはサウナで整えることを最近、覚えたのでコンディションはとても良好です」

 仕事以外でやりたいこと、欲しいものを問うと、瞬時にこんな答えが返ってくる。

「睡眠の質を高めたいと思って最近、携帯用の枕を買いました。あとはそうですね、どこでもドアが欲しいです(笑)」

 発する言葉から感じられるのは、先見性と合理性、そして創造性。「課題、イコール伸びしろ」であると語る十河さんの目には、あらゆる事象が成長の糧として映るのだろう。アジアという広大な市場でAnyMind Groupがこれから、どれほど成長を遂げるのか。同社が辿る今後の道程が、楽しみでならない。

(文=宇都宮浩 写真=国府田利光 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2024/08/02

プロフィール

AnyMind Group株式会社
十河 宏輔
AnyMind Group株式会社 代表取締役CEO
1987 年
香川県生まれ
2010 年
日本大学商学部卒業、株式会社マイクロアド入社
2016 年
AdAsia Holdings Limited(のちにAnyMind holdings Limitedに商号変更)設立、CEO就任
2019 年
AnyMind Group株式会社を設立、代表取締役CEO就任
2023 年
東証グロース市場上場

会社概要

AnyMind Group株式会社
AnyMind Group株式会社
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  • 業種:情報・通信業
  • 上場日:2023/03/29
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