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メドピア株式会社
  • コード:6095
  • 業種:サービス業
  • 上場日:2014/06/27
石見 陽(メドピア株式会社)

集合知を活用し、国民の健康増進を実現

石見 陽(メドピア株式会社)インタビュー写真

 インターネットを介し、日常の出来事や思いを世に公開することが当たり前となった昨今。ウェブサイトやブログ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)は円滑なコミュニケーションを実現するツールにとどまらず、その可能性は拡張を続けている。今までつながることのなかった人や知恵、情報がネットを介して瞬時にリンクし、新たなコトやモノが自然発生的に生まれ出ていくという構図。その今日的なダイナミズムにいち早く着目し、情報の往来が伝統的に閉じられていた医療の分野に新風を巻き起こしている企業がメドピア株式会社である。

「集合知により医療を再発明する」という同社のメッセージ通り、事業の起点は医療従事者同士のコミュニケーションによって医療のあり方を変えていくという思想。デジタルによってしかなし得ない知見の共有、すなわち集合知を国民の健康増進に活用していくというのがメドピアの事業に通底する理念であり、スキームであり、目的である。

 多様に展開する事業は「Supporting Doctors, Helping Patients」のミッションに則したものとなっている。1つは「Supporting Doctors」を体現する「集合知プラットフォーム」と「プライマリケアプラットフォーム」。そして2つめが「Helping Patients」を体現する「予防医療プラットフォーム」である。医師、薬剤師、管理栄養士、個人をこうしたプラットフォームに集めるとともに、そこで得られた知見などを活用して、治療領域のみならず、未病や予防領域にも事業を拡大している。

メドピアグループの事業ポートフォリオ

 
 こうした展開のなかでも同社の中心に位置するコミュニティサイト『MedPeer』には2021年6月末時点で約12.5万人の医師が会員として登録。実に、国内医師の約40%が本サイトの会員ということになる。立ち上げ初期は会員集めに苦労したものの、結果として大きな影響力を持つオンラインコミュニティサイトへと成長した理由について、代表取締役社長の石見陽さんはこう分析する。

石見 陽(メドピア株式会社)インタビュー写真

「医師は自分の知見やアイデアを隠したがるのではないかとよく言われます。ところが実際はその逆。医師は、シェアの文化によく馴染む特性を有しています。そのため、『MedPeer』の様々なコンテンツ上では、治療に対する考え方、薬の有効な使用法など、多様な情報がやりとりされています。言ってみれば医師の業界はエンジニアの業界に近いかもしれません。職人気質で、知的好奇心にあふれ、去年までできなかったことが今年できるようになるとシンプルに嬉しいし、それをシェアしたくなる。学会などでナレッジをシェアするという文化に慣れているのも、医師とオンラインコミュニティの親和性が高い理由かもしれません」

 医学部を卒業後に医師として活躍をし始めた石見さんは、メドピアの代表でありながら、現在も現役の医師として週一度は臨床と向き合う。経営者としての仕事に加えて、医師の現場と接点を持ち続ける理由について、本人はこう説明した。

「『MedPeer』というサービスを運営するにあたって、自分自身がコアなヘビーユーザーでなければならないという思いがあります。医療の世界が今後、どのようになっていくかという見立てにおいて最も多くのヒントはやはり現場にあるでしょう。ですから私は臨床医として現場に立ち続けることにこだわっています。日本のヘルスケアが近未来、どのようになっていくかということを考えながら、『MedPeer』のプロダクトを3年後、5年後にどう展開していくかについて決めていく。こうした判断を進めていく社長が現場に立つ医師であることは、会社にとって大きな強みだと信じているんです」

SNSで体感した 医師間コミュニティの可能性

石見 陽(メドピア株式会社)インタビュー写真

 親族に医師が多かったこともあり、自然と医療の世界へ進むことを考えるようになったという石見さん。高校卒業後は信州大学医学部に進み、順調に医師への道を歩んでいたが、この信州という場所に、後の起業へつながるキッカケが潜んでいた。

「それまで人が大勢住んでいる関東にいたので、信州での生活には戸惑いがありました。地方の狭い世界にいるということに加えて、当時は他の大学の医学生との交流もなく、閉じられた世界であることをなんとなく感じていました。そのようなタイミングで、世の中ではインターネットが急速に進化し始めました。インターネットの進化に触れている世代ということが大きかったと思います。」

 その後、循環器内科の医師として現場に立つようになった石見さん。今度は医師の世界特有の「閉塞感」にある種の問題意識を感じるようになっていく。医師同士の交流は限られた現実空間だけで、世の中の人が何を考え、どのような暮らしをしているのかさえなかなか分からない。臨床医として現場に立つと、どうしても見る世界、感じる世相は限られてしまう。こうした現状に加え、世間では医療訴訟の増加が社会問題ともなっていた。医療訴訟に関する報道がなされるたびに、医師や医療の体制には批判が集中。この問題の根底にも医師の世界特有の閉塞感が深く関係していると確信するようになる。そして医師になってから5年後の2004年に現在のメドピアを立ち上げた石見さん。その3年後には早くも基盤事業である医師専用コミュニティサイト『Next Doctors(現MedPeer)』の運用をスタートさせた。

「創業した2004年頃、医療を取り巻く空気感は医療不信によって最悪の状態でした。問題は、なぜ医療ミスや医療不信が深刻になっていったかです。こうした問題を解決していかなければ医師も患者も幸福にはなれません。また、医師には自身の考えを世の中に伝えていくのが苦手な人が多いと私は感じていました。ならば、閉じた世界を外とつなぐコミュニケーションが大切であろうと。さらには閉じられた世界での標準的な意見を偏りなく、世の中に発信していこうと。こうした思いが起業の原動力となっていきましたね」

 時を同じくして、時代はSNSが盛り上がり、運営会社の東証マザーズへの上場が話題になっていた。SNSをきっかけにネットの空間で知識を交換し深め合うというポジティブな側面を見出した石見さん。医師たちが求める電脳空間とはどのようなものかについて、具体的な考えが自然と固まっていった。

「SNSのなかで、初めは医師同士でお互いに意味のある交流をするのですが、徐々に医師以外の人がそのコミュニティに参加するようになってきたんです。参加者を医師に制限する機能はありませんでしたからね。すると、たとえば、一般の方から"膝が痛いが何科を受診すればいいか"といった質問などが出てくるようになっていき、医師がそれに答えるようになっていった。でも、そのように医師以外とのコミュニケーションが増えることで本来のコミュニティの目的がずれてしまい、濃厚な交流を楽しんでいた医師たちが、少しずつ去っていくのを見たんですよね。そこで思ったのは、医師限定のSNSがあれば、医師たちは専門的な意見をどんどん交換できるのではないかということだったんです」

 収益を上げるビジネスモデルではなく、純粋な思いから言わば「サービスモデル」を重視して計画を練っていった石見さん。医師としての仕事を続けながら、前例のない医師限定のコミュニティ運営がここから始まっていく。

不屈の精神で 会員増加に邁進

石見 陽(メドピア株式会社)インタビュー写真

 会社を立ち上げ、コミュニティサイトをスタートさせたとはいっても、医師のユーザーを獲得していくには相応の時間を要した。コミュニティを始めた直後の実感を石見さんはこう語る。

「盛り上がっていくという実感はしばらく全く得られませんでした。SNSが広がっていったのは相互紹介機能という特性が大きく、人が人を呼ぶ構図です。でも、ネット上でオープンに医師のユーザーを呼び込んでもなかなか集まらない。個人情報に関する警戒心に加え、医師は自身の評判に対しても敏感なので簡単には人の輪が広がっていかなかったのです。創業当初、ユーザー集めには非常に苦労しました」

 それでもめげずに会員集めに奔走した石見さん。医師が集まる学会に出向き、自らフライヤーを手配りするようなことまで行った。こうした地道な努力によってなんとか7000人ほどまで会員を集めることに成功する。だが、まだまだ設定した目標には程遠い数字。そこで思い至ったのが提携によるシナジー効果だった。大手ビジネス雑誌へ話を持ちかけ、交渉の末、提携契約の締結に成功。ブランド力のあるサイトの力を借りて、『MedPeer』の会員数は3万人ほどまで膨らんでいく。

「『MedPeer』の歴史は会員獲得の歴史でもあって、会員獲得においては重要な提携が力強い支えにもなりました。支えといえば、会員が伸び悩んでいた時期に提携先の社長から『至誠天に通ず』という孟子の言葉を紹介いただいたことが非常に大きかった。真心をもって事に当たれば結果につながるという意味なんですが、長期的に誠を尽くすことが大切なんだとあらためて気づかされたんです。短期的な利益を追求して道を誤らないようにということでもありますね」

 そんな石見さんがコミュニティサイトの認知度において、ようやく納得できるレベルに到達したのが2014年のこと。この年の6月、マザーズ市場上場を果たしたことも『MedPeer』の成長に大きな影響を及ぼしたと話す。

「社会の公器となるべく上場を決意したのですが、上場後のサイトに対する信用力向上という効果は大きかったと感じています。それまでも名前くらいは知っているという医師が既に少なくなかったとは思いますが、上場を経て信用力が向上したことで『MedPeer』そのものの価値が上がったという実感があります」

理念と利益の最大化を。 ジム・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー』や 渋沢栄一『論語と算盤』から学んだこと

石見 陽(メドピア株式会社)インタビュー写真

 石見さん曰く「サービスモデル」を進化させて成長を遂げてきたメドピアだが、マネタイズの観点から見ると大きな分岐点は『MedPeer』のサービスとして「薬の口コミ評価」を始めたタイミングにあった。医師による薬の評価掲示板機能がマネーを生み出す源泉となっていったのだ。

「同窓会で同期が集まった時、薬の話になったんです。この会社の薬はとてもよく効くけど副作用があるなといった内容。そこで実感したのは、医師同士の口コミによって自分の行動が大きく変わるということでした。もちろん医師たちは、EBM(エビデンス・ベースド・メディスン)といって根拠に基づいた上で科学的に薬を使っていくという思考には慣れています。でも一方で口コミといった現場のリアルな情報も必要だとあらためて感じるきっかけになったのです。全国の医師が知識や経験をシェアすることで自らの診療をレベルアップすることができる。それこそネットを通じたコミュニティならではの取り組みではないかと」

 薬剤評価掲示板には、当然、薬に関するネガティブな評価も書きこまれる。そのため当初は製薬会社から警戒もされた。そこで製薬会社を一社一社訪ね、薬剤の評価は薬のクオリティを向上させることにつながると説いてまわった石見さん。ネガティブな評価を抑え込むのではなく、医師たちの真摯な評価に耳を傾けるのは製薬業界の発展にも貢献するといった主旨のメッセージを製薬関連各社に発信。同時に、集積した医師たちの情報閲覧や医薬品の広告掲載、医師へのアンケート調査といった機会を製薬会社へ提供することで、メドピアの収益構造を確立していく。

メドピアのビジネスモデル

 
 医師の閉塞感を打破して開かれた医療を広く社会へ提供するという理想。そして収益構造を整え、持続的な事業としていく企業本来の目的を同時に達成した石見さん。2020年9月にはついに東証第一部へのステップアップを成し遂げ、さらなる高みへと目線を上げた。

「ジム・コリンズの著書『ビジョナリー・カンパニー』や渋沢栄一の著書『論語と算盤』に出会って、理念と利益の最大化について腹落ちするようになったのは自分にとって大きかったですね。医師はなんとなくお金儲けというものに抵抗感を抱いているんです。私も以前はそうでしたし、医師限定のコミュニティを作るという純粋な思いだけが先行していました。理念を最大化すると儲からず、利益を最大限に追求すれば理念は追えないという思想ですね。でも、理念と利益を双方、追求する会社こそが安定し、継続的に成長すると、その本にはあった。それを読んで株式会社の真の意義を理解できるようになったんです。事業によってお金を集め、それを再投資し、理念を最大化していくというサイクル。これを続けていけば社会への貢献につながっていくのだという確信です」

 公的な存在になるという決意において、上場は必然となっていったと語る石見さん。東証一部への市場変更準備を経て、ポートフォリオを多様化することにも強い意識が向くようになった。結果としてメドピアが展開するサービスは拡張を遂げ、社会への影響力は増していくようになる。

「2018年には大手ドラッグストアチェーンとの業務資本提携を締結しました。ヘルスケア分野においてドラッグストアは地域の重要拠点となり得る。薬剤師のあるべき姿を未来に向けて模索していた提携企業と弊社の思いが一致した結果ですね。来店者に向けた健康相談や会員を活用したアプリ提供、提携企業が持つ用地を利用した医師への開業支援事業など多様な展開を今後、推進していく予定です。私たちは医師や医療従事者だけでなく、患者へも直接アプローチする事業の拡充に今後、一層注力していきたいと考えているんです。そのような観点でも上場によって社会からの信頼を得るとか、認知度を向上させるといった意義は大きい。ヘルステック業界が注目されるようになった現在、上場によるインパクトは計り知れません」

メドピアを後押しする 時代の流れ

石見 陽(メドピア株式会社)インタビュー写真

 創業して数年は、現場の医師に軸足を置きながらサイドビジネスとしての『MedPeer』を運営していた感覚だと語る石見さん。経営に本腰を入れ、言わば完全なる二足のわらじを履くようになったキッカケは、2006年頃に尊敬する経営者に背中を押されたからだという。

「中途半端に企業を経営すると、結果的に世の中に迷惑をかけることになると言われたんです。そのようなこともあって、社会貢献を考えるなら経営者としてしっかり企業を成長させなければダメだと思うようになっていきました。上場などを経て、経営者としても認められる存在になろうと考えたもうひとつの理由は、医師にとっての新たな道筋を示せるのではないかということです。医師として現場にも立つし、経営者としても企業を運営し、社会に貢献する。こうしたあり方が医師にとってひとつのキャリアになればいいと」

 世界を激変させた新型コロナによる災厄。結果として多様な業界、ワークスタイルは短期間のうちに急激な変化を迫られ、もちろん医療の現場も大きな変革の時を迎えている。オンラインを前提とした医療のあり方が急速に社会へと浸透し、ネットを通じたさらなる医療サービスの拡充が今まさに人々から求められている。

「医師、製薬会社、患者らがオンラインでつながることに、社会は大きな価値を感じています。事業環境としては非常にポジティブであると捉えることができるでしょう。病院のDX化や予防医療の分野におけるアイデアもあり、メドピアができることはこれから益々増えていくと感じています。私が起業した時は奇異な目で見る人も少なくありませんでしたが、今は医療とオンラインの親和性が極めて高い時代になりました。先駆けとしてのアドバンテージを活かしつつ、先の長い階段を一つひとつ登っていきたいなと思っています」

 ネットの持つエネルギーによって、医師の世界を覆っていた閉塞感の打破に挑戦し続けるメドピア。その試みの先には医師にとっても、患者にとっても、幸福な世界がきっと待っているだろう。現役の医師として、社会に資する企業のリーダーとして、石見さんの次のアクションに注目していきたい。

(文=宇都宮浩 写真=髙橋慎一 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2021/06/23

プロフィール

石見 陽(メドピア株式会社)プロフィール写真
石見 陽
メドピア株式会社 代表取締役社長
1974 年
千葉県生まれ
1999 年
信州大学医学部卒業 東京女子医科大学病院循環器内科学入局
2004 年
株式会社メディカル・オブリージュ(現メドピア株式会社)設立
2007 年
医師専用コミュニティサイト「Next Doctors(現MedPeer)」の運用開始
2014 年
東京証券取引所 マザーズ市場へ株式上場
2020 年
東京証券取引所 市場第一部に市場変更

会社概要

メドピア株式会社
メドピア株式会社
  • コード:6095
  • 業種:サービス業
  • 上場日:2014/06/27