上場会社トップインタビュー「創」

株式会社ミダック
  • コード:6564
  • 業種:サービス業
  • 上場日:2018/12/21
加藤 恵子(株式会社ミダック)

結果しか見えない税理士から結果を作る経営者に転身

加藤 恵子(株式会社ミダック)インタビュー写真

 2020年初め、豪州の森林火災による自然破壊と大気汚染が注目されたのは記憶に新しい。こうした災禍は、国や地域によらず、例年世界のどこかで頻発している。
 環境にかかわる諸問題は、地域開発や産業の発展に伴い、深刻さを増している。例えば地球温暖化や海洋プラスチック問題を一国や一企業の対応で課題解決に至るのは困難だが、もっと狭い領域の環境改善であれば貢献できる——そう考え、廃棄物処理を中心とした環境改善を本業に据える企業はあまたあるが、上場企業は少ない。

 静岡県浜松市に本社をおく株式会社ミダックは、一般・産業廃棄物の収集運搬・処理・処分を一貫して行う総合廃棄物処理企業で、東証の市場第一部に上場している。現在の同社トップである加藤恵子さんは、税理士資格を持ち、上場の立役者の一人でもある。

「ミダックとは一税理士として出会いました。その頃のミダックは地元の中小企業で、決算仕訳から税金計算まですべて税理士事務所任せでしたが、当時の社長は上場に対する意欲をお持ちでした。そのためには経営体制、とりわけ経理体制の強化は必須で、私は取締役経理統括部長の任を受け、2006年に入社しました。入社前から従業員の皆のあいさつが気持ちいい、地道にコツコツと仕事に取り組む社風で、とても好感が持てました。それは入社後も変わらず、ここまでの会社の成長を支える基軸になってきたと思います」

 加藤さんは入社前、デロイトトーマツの税理士として名古屋事務所で働いていたが、顧問先の事業会社への転職。戸惑いはなかったのだろうか。

「税理士は結果しか見えない。終わった数字しか見えないんです。もっとこうしたら良かったのにと、もどかしく感じることもありました。経営側なら自分の意思決定で数字を作れます。今まで経験してきた税務・会計・法務等の知識が、全て生きた知識として使え、数字を作るのに役立つのです。そこにやりがいを感じるし、すごく楽しいんです」

内部管理体制の課題を組織再編でダイナミックに解消

加藤 恵子(株式会社ミダック)インタビュー写真

 ミダックの創業は1952年まで溯る。創業者がし尿汲み取り業務を始めたが、トイレは徐々に水洗に。高度経済成長期に法令上一般廃棄物と産業廃棄物の区分ができ、産業廃棄物が増加したのを機に業態転換した。
 産業廃棄物処理事業者として、他社との差別化を図るために着手したのは、最終処分場の運営だった。運営を始めた1972年から5年後には2カ所で安定型最終処分場を開設、時を経て88年に管理型最終処分場を新設した。管理型は安定型に比べて、不安定な廃棄物処理を伴うので設備投資が大きくなり難易度は高い。自社で認可を取れたことはアドバンテージとなった。
 さらなるターニングポイントは、2002年に、大手プラントメーカーとの共同出資事業である株式会社ミダックふじの宮が、静岡県で最大規模の一般・産廃焼却施設を開設したことだ。

「それまでは単独でしか事業展開してこなかった当社にとって、この共同事業から事業拡大のヒントをもらいました。これをきっかけに、東京と富士宮に営業所を開設し、またグループの中核事業となる『最終処分』と『焼却』が築かれることにより、営業範囲や業績に大きな変化をもたらすこととなりました」

 短期間で成長したことの弊害がなかったわけではない。加藤さんの入社に込められた当時の経営陣の期待は、弊害の解消、経営改革にあった。

「私が入社した当時、社員は150人くらいでしたが、組織はかなり大きなホールディングス体制をとっていました。親会社の純粋持ち株会社と、その下に6つの子会社、1つの孫会社、さらにプラントメーカーとの共同出資の関連会社。しかし内部管理体制が整備されていません。上場を目指すことは決まっていたので、決算の早期化が必要でした。特に連結を組んだ経験がない子会社6社連結するのは容易なことではありません。そこで、子会社、孫会社を吸収合併し、決算の早期化と中期経営計画の策定や業績見通しがスムーズにできるように経営をスリム化しました。ホールディングス体制は2010年に解消し、経営判断の迅速化、ガバナンス強化を達成するに至りました。」

 その後、2013年には事業譲渡で岐阜県関市の水処理施設を取得、15年には3月と12月に立て続けにM&Aで2社を子会社化した。1社は中間処理施設を運営する会社、1社は最終処分場を運営する。その結果、産廃業の三種の神器と呼ばれる「水処理」「焼却」「埋立」がそろった。これにより、多様な処理施設や認可を保有していることで収益基盤が確立し、上場への体制整備が完了した。

目指すは業界全体の社会的地位向上、創業者の熱き思いを継承

加藤 恵子(株式会社ミダック)インタビュー写真

 そこに至る過程で、同社はもう一つ大きな賭けに出ている。事業の成長をけん引してきた大手プラントメーカーとの共同出資事業の解消だ。議決権50%で自由度に欠けるこの事業が利益率を上げる足かせにもなっていた。

「上場会社である事業パートナーに、私たちも上場を目指しているので残り50%の株式を売ってほしいと交渉し、理解をいただきました」

 先代から強く上場にこだわってきたのは、自社の競争力の強化だけではないと加藤さんは言う。

「業界全体の社会的地位向上です。上場は一般企業でも狭き門です。産業廃棄物処理業者は、今でこそ環境問題や頻発する災害後の多様なゴミ問題でクローズアップされていますが、一部の問題のある事業者が目立つのは事実です。自社の信用力向上はもとより、業界を底上げしたいという創業家の熱い思いがあったと思います。上場するためには「資本」と「経営」を分離することが必要で、創業家の方は自らの地位を手放すことになったのですが、それでも『会社ひいては社会のためなら』と積極的に管理体制強化に協力してくれました」
 従業員にもその思いは浸透している。実はミダックという社名。1996年に商号変更されているが、従業員から社名を募集して決めたという。従業員の会社と業務に対するロイヤリティーと意識向上を狙ったようだ。
 「水」「大地」「空気」の頭文字を組み合わせたシンプルな社名だが、この発案は経営理念、「ミダックは、水と大地と空気そして人、すべてが共に栄えるかけがえのない地球を次の世代に美しく渡すために、その前線を担う環境創造集団としての社会的責任を自覚して、地球にやさしい廃棄物処理を追求してまいります」にも通じる。

上場は着実に一歩ずつ進む堅実な社風から得た果実

加藤 恵子(株式会社ミダック)インタビュー写真

 はたして上場を実現したのは2017年。名古屋証券取引所市場第二部、その翌年に東京証券取引所市場第二部上場、2019年には両取引所の市場第一部へと毎年ステップアップしている。

「2017年の新規上場後、順調にステップアップできた背景には、上場審査に入るまでに10年もの時間をかけてきたことが功を奏しました。上場には、信用力向上、資金調達の多様性、優秀な人材確保といった目的もありましたが、上場準備を通して会社の改革をする狙いもありました。上場は最終目的ではなく手段の一つと考えています。上場を目指す過程で会社を整備し、継続して成長していくための組織経営を実現させたいという思いが強かったのです。従業員にも同じ気持ちで取り組んでもらったので反対の声はありませんでした。むしろ、皆が与えられた課題を一つずつ真面目にクリアしていくことで自信も付いてきたと思います。10年間は常に上場直前期として監査法人の監査を受け、株主総会も上場企業と同じように想定問答集を作って挑みました。その結果、ある意味上場前も上場後も、業務の大変さは何も変わらないんです」

 10年間、着実に今の体制を築き上げ、一部指定を果たしたことで得られた果実もある。

「東証市場第一部指定後の効果としては、1つは出来高が増えました。2つ目は投資家との接点が増え、特に従来に比べ大手の機関投資家からの面談依頼、海外投資家からのミーティング依頼も徐々に増えつつあります。3つ目は従業員の意識が変わりました。ジョブローテーションをいとわず、積極的になったと感じます。なかには、『東証一部の企業に就職したなんてすごいね』と家族や親せきから言ってもらえたと喜ぶ社員もいて、一部指定を果たせて良かったと思いました」
「経営者としては、経営のスピードが上がったことが何よりの成果です。エクイティファイナンスによる資金調達ができたことで関東方面への進出が可能になりました。M&Aを検討しながら自社の開発事業を積極的に展開し、事業のさらなる拡大を目指す方針です」

 IRにも積極的に取り組んでいる。

「投資家とのコミュニケーションは極力トップである私が直接経営方針と成長戦略について伝えるようにしています。投資家にとって産業廃棄物処理業はなじみがないので、事業内容にも深く言及しています。今後はESG投資に関連し、非財務情報について積極的に情報を開示していきます。フェアディスクロージャーを意識し個人投資家にも理解しやすいIRにも取り組んでいく考えです」

地域社会そして社員とともにある環境貢献企業

豊橋市との災害廃棄物仮置場協定の調印式

 産業廃棄物処理業者として、地域社会との相互理解は欠かせない。地域との共生や社会貢献といった観点からはどのような取組みをしているのだろうか。

「私は、2019年4月に社長に就任したのですが、この間多くの自然災害や、新型コロナウィルス感染症の被害がありました。こうした被害の報道を目の当たりにするなかで、社会インフラとして何かをしなくてはならないと考えていました。」
 そうして、加藤さん自身が目の前の課題に真摯に向き合い、自然災害への対応や地域社会の活性化を図る取組みを打ち出していく。

 2019年には、豊橋市民の防災および今後の備えとして、豊橋事業所の敷地を提供する旨の「災害時における災害廃棄物の仮置場用地の確保等に関する協定」を豊橋市と締結した。豊橋市出身の加藤さんにとって感慨深いことでもあった。

 新型コロナウイルス流行は、社長に就任した加藤さんを襲った苦難だった。医療や物流、小売りの分野と違い一般市民からは見えにくいが、同社従業員もエッセンシャルワーカー。政府から業務継続を要請され、社長自ら対策本部長として陣頭指揮を執り、マスクや防護服の確保に奔走した。
 一方で、特別企画として「コロナに負けるな!ミダックのお客様を応援しよう!!」と銘打ち、取引先の飲食店を対象に社員に対してテイクアウト利用を推奨し補助を出した。加藤さんのアイデアだ。

 またSDGsに関連した取り組みとしては、地元のこども食堂への支援がある。

「SDGsの目標1にある『貧困をなくそう』に貢献すべく、当社が防災備蓄品としているカンパン・アルファ米・飲料水および地域住民や社員に募って提供してもらった食品をNPO法人に寄贈し、こども食堂の運営などに役立ててもらっています」

 働きやすい職場づくりにも積極的に取り組んでいる。

「性別を意識して環境づくりをするのではなく、社員全体へのバックアップとして、仕事と出産・育児・介護の両立支援制度の充実を目指しています。具体的には、時間外労働の削減、年次有給休暇の取得促進、育児支援制度の導入、次世代育成支援などがあります。育児支援では看護休暇の一部有給化、育児支援のための手当の見直し、また次世代育成支援では小学校への出張授業、剣道連盟の子供たちとの富士山清掃などを行っています」

 多彩で実効性のある取り組みが評価され、子育てサポート企業として高い水準にある企業を厚生労働省が認定する「プラチナくるみんマーク」を業界で初めて、静岡県で2番目に取得している。

 新卒採用にも積極的だが、最近は「環境への貢献」を志す意識の高い学生が増えている。環境に貢献する上場会社として恥ずかしくない制度づくりをしなければと社内制度改革の手を緩めない。

プラチナくるみんマーク

プラチナくるみん認定書

未来の成長をつむぐ「ただ、今、この瞬間」

加藤 恵子(株式会社ミダック)インタビュー写真

 度重なる自然災害、感染症などで、業界のプレゼンスは向上している。

「やはり顕著に風向きを変えたのは、東日本大震災でした。被災された同業の会社がBCPを活用していち早く復興し、廃油などの処理をされたことが注目され、社会インフラとしての見方に意識が変わってきたと思います」

「廃棄物処理業界は、これまでも景気に左右されにくいと言われてきました。産廃の排出量の推移をみても過去10年以上、概ね4億トンで推移し、事業環境が大きく変化する可能性は低いと考えています。当社の強みは多数の処理施設保有や認可を得ていることで、幅広い顧客基盤を築いていることです」

 現在の東海地区を中心とした事業展開から、今後はさらに大きな需要が見込める関東方面での事業を積極展開していくという。自社開発に加え、M&Aのノウハウも蓄積されつつある。これまでのM&A等は、仲介会社を入れず独自で丁寧な交渉を行っている。

 『而今(じこん)』という言葉が好きだという加藤さん。道元禅師が中国での修行時代に悟った世界観だ。「ただ、今、この瞬間」という意味で、物事の本質を見据えたうえで、「今、この瞬間」の自分の言動に集中し、心を向けて懸命に取り組むことこそ、事態を好転させる唯一の方法だという。
 社長としての加藤さんの物語はまだ序章。今、この瞬間は未来につながっている。

(文=吉田香 写真=岡村享則 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2020/10/08

プロフィール

加藤 恵子(株式会社ミダック)プロフィール写真
加藤 恵子
株式会社ミダック 代表取締役社長
1993 年
佐藤澄男税理士事務所(現 税理士法人名南経営)入所
2001 年
税理士登録
2002 年
公認会計士・税理士祖父江良雄事務所(現 デロイトトーマツ税理士法人名古屋事務所)入所
2006 年
株式会社ミダックホールディングス(現 ㈱ミダック)入社
取締役経理統括部長に就任
2016 年
同社管理部長に就任
2017 年
名古屋証券取引所 市場第二部へ株式上場
2018 年
東京証券取引所 市場第二部へ上場
2019 年
同社代表取締役に就任
東京証券取引所市場第一部、名古屋証券取引所市場第一部に指定

会社概要

株式会社ミダック
株式会社ミダック
  • コード:6564
  • 業種:サービス業
  • 上場日:2018/12/21