上場会社トップインタビュー「創」

株式会社プロレド・パートナーズ
  • コード:7034
  • 業種:サービス業
  • 上場日:2018/07/27
佐谷 進(株式会社プロレド・パートナーズ)

経営を学ぶため、藝大からコンサルタントの道へ

佐谷 進(株式会社プロレド・パートナーズ)インタビュー写真

 ル・コルビュジエに憧れ、学生時代を過ごした。コルビュジエは、フランスを中心に活躍したモダニズム建築の巨匠だが、日本では世界遺産に登録された東京・上野の「国立西洋美術館」を遺した作家と言うととおりがいい。
「現代アーティストになりたかった」。これは成果報酬型コンサルティングサービスを提供する株式会社プロレド・パートナーズ(以下、プロレド)の代表である佐谷進さんの学生時代の夢だが、ただ憧れていただけではない。実際に、日本の芸術大学の最高峰とされる東京藝術大学で建築を学んだ。
 経営学部出身者が全員経営者になるわけではないし、教育学部出身者が必ずしも教師になるとは限らない。そういう意味では余計なお世話なのだが、思わず聞きたくなる。

 なぜ、アートとは対極にも思えるビジネスコンサルタントの道を志したのか。

 理由は端的で、大学3年時に先輩から、アトリエ勤務では稼げないということを聞いたからだった。
「将来的に名声を得られたとしても、若いうちにある程度の収入がなければ生きていけないと思いました。アーティストの業界は、ただ収入が低いだけではなく、働く時間が途轍もなく長いんです。それでは自分がつぶれてしまうかもしれない。ならばアーティストが働き、学び、経験を重ねながら適正な収入を得られるマーケットを作るプロデューサーになりたいと、夢を方向転換したのです」

 夢を実現するために経営を学びたいと考えたが、当時藝大を卒業後にビジネスの道へ進む人は少なく、就職活動に適した情報を得ることは難しかった。そこで経営力を身につけるために適している業界を考えた結果、大手の外資系コンサルティング会社をリストアップし、順次面接に出向いた。

ひとつの出会いが独立への長年の思いを形に

佐谷 進(株式会社プロレド・パートナーズ)インタビュー写真

 就職活動の結果、縁があったブーズ・アンド・カンパニー(現PwC Strategy&)でコンサルタントとしての経験を積んだ後、当時盛り上がりを見せていた不動産ファンドに着目した。リノベーションでファンドを運用して収益を上げるというようなスキームを見て、建築科出身のバックグラウンドが活かせるのではないか、この分野と金融を組み合わせるのは面白いと思ったという。

「REIT(不動産投資信託)運用会社には4年半ぐらい在籍しましたが、その期間中もずっと独立への思いがあり、今の会社の設立登記だけ先に済ませました。とにかく自分にプレッシャーを与えるためです」

 なぜ独立にこだわったのか。
「実は小学生のときからずっとビジネスに興味を持っていました。小学5年生のときに読んだマンガの中にコンツェルンという言葉が出てきて、それが僕の中でずっと残っていたからです。建築家を目指していた時も、事業家への関心は絶えずありました。建築家であるコルビュジエはクライアントから依頼された仕事しかしないと聞きましたが、自分がオーナーになり、建築とビジネス両方を一貫して手掛ければ、年に100軒でも造ることができるのではないかと考えていたのです」

 ただ、その時点で頭の中にあるビジネスモデルは「ふんわり」していた。結果的に背中を押すことになったのは、1社目の会社員時代に出会った1人の経営者だ。

「社会人1年目のアナリスト時代に、仕事の一環でコジマ電気(現 株式会社コジマ)の当時の社長だった小島さんにインタビューをしました。1人で来た僕を気に入ってくださり、仕事を発注したいと言っていただきました。残念ながらその話は立ち消えになりましたが、その後もお付き合いは続きました。久々にお会いしたときに、出退店戦略に協力してもらえないかと話をいただいたんです」

 二つ返事で引き受けたその戦略が好評を得たことが転機となり、徐々に大きなプロジェクトを任されるように。2009年12月に会社を辞め、完全に独立した。

 このときのキーマンがもう一人いる。
「友人だった山本卓司(現 プロレド専務取締役)です。彼に独立を考えていると相談したところ、ぜひ一緒にやりたいと言ってくれました。勤めていた会社を辞め、2009年12月にレンタルオフィスを借りて、2人でプロレド・パートナーズを立ち上げたのです」

提供価値と対価が一致した社会実現が理想

佐谷 進(株式会社プロレド・パートナーズ)インタビュー写真

 プロレドのビジネスの特徴は、成果報酬型コンサルティングサービスである。このビジネスモデルは設立の時点で決めていたと佐谷さんはいう。

「コンサルティング業界では、成果に関係なく報酬が支払われる「固定報酬型」が一般的です。そのため、報酬だけ発生して実際には計画が実行されないプロジェクトもままありました。一方で、REITに携わっていたときはアクイジション※1の立場だったので、売買が成立したときだけフィーが入ってくるというビジネスモデルでした。2、3カ月追いかけた案件が最後に頓挫して報酬がゼロということもありましたし、クリスマスを犠牲にして年末ぎりぎりの決済に間に合わせることができてホッとしたこともありました。その経験から、関わった案件の結果が分かる成果報酬型の仕事の方が自分には合っていると感じたのです」

「僕がREIT運用会社で商業施設開発に携わっていたときの話です。当時リーマンショックの影響で、投資先である商業施設のテナントの多くが撤退したいと言い出しました。投資家の利益を守るために簡単には解約できない契約を結んでいましたので、テナントの一つである食品スーパーはその商業施設から撤退できず、結果として他の店舗を複数閉店することになりました。食品スーパーは地域の食インフラを支えるという価値のあることをやっているにも関わらず、赤字で苦しんでいる状況を見て、会社が適正な利益(価値)を得られるような世の中にしていきたいと思いました。コンサルタントはブルシット・ジョブ※2だと言われることもありますが、この時の経験をもとに、本当に世の中に必要なコンサルティングとは何かを考え抜いた結果が成果報酬型コンサルティングでした。価値と対価の交換という理念なら、ブルシットとは言えないでしょう」

 ブルシット議論はさておき、完全成果報酬型が競合他社との大きな差別化ポイントであることは間違いない。さらに言えば、ビジネス上の差異化を求めて成果報酬型というモデルを具現化したのではなく、提供する価値と対価が一致した社会を実現したいという理想が佐谷さんにはある。
 プロレドでは、まずクライアントのデューデリジェンスを行い、施策を提案し、相手が了承すれば契約する。その時点で報酬は発生せず、提案に対する成果が出た時点で収益となる。REITの営業時代同様、報酬をもらえないこともある。

「ビジネスとして報酬がもらえない件数が多くては困りますし、それはクライアントに価値を提供できなかったという答えにもなります。つまり成果報酬型ビジネスは、クライアントに提供するサービスのクオリティが高くないと成り立たないものなのです。結果が目に見えるというビジネスの面白味はありますね」

※1 アクイジション  不動産ファンドの組成に伴う投資対象不動産の取得
※2 ブルシット・ジョブ  人類学者デヴィッド・グレーバーが2018年に発表した書籍のタイトルで、日本でも話題になった。社会的に無意味な仕事(ブルシット・ジョブ)を仮定し、社会的有害性を分析している。

完全成果報酬型のマルチスペシャリスト集団へ

佐谷 進(株式会社プロレド・パートナーズ)インタビュー写真

 プロレドのコンサルティングサービスは、コストマネジメント、業務改善、売上アップ、マーケティング、セールスマネジメントと幅広い。等しく成果を上げていくのは難しい分野もあるが、計画が成就したのかどうか最後まで一貫して確認できるところが強みだという。これは社員コンサルタントの成長につながり、ひいてはクライアントの利益になる。

「なぜだめだったのか、復習し、改善できる。そのようにして経験を積み上げてきたスペシャリスト集団なんです。コンサルタントはゼネラリストだとも言われますが、大事なのはマルチスペシャリストになることではないでしょうか。専門性のある分野への取り組みを2つ、3つと重ね合わせていくことで、ゼネラリスト的な力がつき、スペシャリストとしての深みも得られる。そこが大きな強みです」

 人材採用についてもユニークな理想を持つ。
「採用するなら、まず相性が合う人、友だちになれそうな人を、というのが僕の考えです。例をあげるとするなら、ムーミン谷の詩人であるスナフキンです。彼は人気者ですが、自由を愛する旅人ゆえに仕事はしていなさそうに見えますから普通の会社なら採用しない人材でしょう。でも、毎朝スナフキンが皆を元気づける一言を書いて、皆のやる気が10%上がるとしたらどうでしょうか。社員が50人いたら、スナフキンの仕事量は5人分にも相当しますよね。たとえ仕事ができたとしても皆にストレスを与え、全員の能力を10%下げる人材よりも、スナフキンのような人材のほうが価値が高いと思っているんです」

 全員がスナフキンだと困ると思うが。
「それは確かに困りますね(笑)。でも、困った人がいるときに助け合う気持ちが自然と生まれるような組織にしたいと思っています。たとえば、当社が大事にしている考えの一つに『COMPASSION』があります。会社人である前に一人の人間ですから多様性を認めて互いに敬意と思いやりを持つことが大切だと考えているのです。社員みんなが人としてどうありたいかを考え、成長していってもらうことが理想です。また、企業風土としてはフラットさを大切にしています。経営の執行上はピラミッド型で、もちろんルールもありますが、その中で僕はたまたま代表の役割であるだけで、精神的な立場は他の社員と一緒だと思っています」

 経営の中での優先度を聞いた。
「成長とCOMPASSIONの両立です。成長のほうがいいのか、COMPASSIONの社風を維持するのがいいのか、これは悩みどころです。会社がなくなっては社風を維持できないが、成長だけを目指してCOMPASSIONをなくしてまで会社があるべきなのか。やはり両立させるしかないですね」

時価総額1000億円達成が代表を続けるための最低ライン

佐谷 進(株式会社プロレド・パートナーズ)インタビュー写真

 自由な経営を心掛けているようにも感じる佐谷さんが、なぜ上場を目指したのか。

「会社を大きくする必要があったからです。大企業の平均的な1人当たりの生産性は中小企業の約3倍というデータがあります。当然働く人の給与や待遇にも影響します。自分たちのサービスが本当に社会の役に立っているのなら大きくすべきです。それで生産性が高まれば、社員が報われ、僕が理想とする成長とCOMPASSIONの両立がかなえられると考えました。さらに、社内だけではなく、システム等への投資を増やすことができると、クライアントにより良いサービスを提供できるようになります。上場したほうが当然、会社が大きくなるスピードが速くなると考えています」

 一方で、佐谷さん自身に大きな枷を掛けた。
「上場時に5年で時価総額1000億円を達成できなければ代表を辞めると宣言しました。これは上場したあとに業績が変わらないなら、その代表は退くべきという考えからです。もし達成できなかったとしたら、僕の経営者としての寿命はあと2年半ということになります」

 上場準備を始めたときの社員数は20~30人。上場経験者ゼロの中、上場準備すべてに代表自らが関与した。2018年にはマザーズに、2年後の2020年には市場第一部に上場を果たした。得られた効果を聞いた。

「自分自身は、より現実的に時価総額1000億円にするにはどうすればいいのか、考えるようになりました。マーケットからは良い質問が常に与えられ、良い回答ができるのも良い経験です。また、大企業のクライアントが同格に見てくれるようになったという変化は、コンサルティング業界にいる上でとても大きなことだと考えています」

 IRについてもこだわりがある。
「実は、IRの資料は自分で作っています。他の人が書いた資料だと決算発表のときについ文字だけを追ってしまうんです。自分の言葉で語りたいというのが真意です」

会社を変え、人を変え、企業価値向上を実現

佐谷 進(株式会社プロレド・パートナーズ)インタビュー写真

 これから起業や上場を目指す方へ。

「起業については向き不向きがあるので、誰にでも勧められるものではないと思います。会社の一員として、その人にしかできない仕事をする方が向いているという人も大勢いるからです。でも、起業を選択するのであれば、上場をしたほうがいいと思います。会社を継続させることを第一に考えたときに、経営者であるあなたが明日死ぬ可能性がゼロではない以上、パブリックカンパニーになる必要があるというのが僕の意見です」

 今後の会社のビジョンは何か。新たな投資ファンド事業進出についても聞いた。
「変化し続けるということにこだわっていきたいです。ブルシット・ジョブではないコンサルティングサービスとは何なのかを突き詰めると、自分たちが関与することで会社そのものや、そこで働いている人をより良い方向へ変えることだと思うのです。そのために、我々は今後もサービスのクオリティを追求していきます。昨年、投資ファンド事業を立ち上げたのも、株主という権利を持つことで会社を変えられるからです。企業価値の向上実現に向けた取り組みに対して、金融機関からも一定の評価をいただいています」

 ワーカホリックと自認するほど仕事に没頭し、マンガとゲームが唯一の息抜きだという。それでも佐谷さんがストレスフルに見えないのは、目標とした時価総額の達成だけを追うのではなく、思い描く理想に向けて歩みを進めているからなのかもしれない。

(文=吉田香 写真=岡村享則 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2021/04/14

プロフィール

佐谷 進(株式会社プロレド・パートナーズ)プロフィール写真
佐谷 進
株式会社プロレド・パートナーズ 代表取締役
1976 年
大阪府生まれ
2002 年
ブーズ・アンド・カンパニー(現PwC Strategy&)入社
2005 年
ジャパン・リート・アドバイザーズ株式会社入社
2009 年
株式会社プロレド・パートナーズ創業
2018 年
東京証券取引所 マザーズ市場へ株式上場
2020 年
東京証券取引所 市場第一部に市場変更

会社概要

株式会社プロレド・パートナーズ
株式会社プロレド・パートナーズ
  • コード:7034
  • 業種:サービス業
  • 上場日:2018/07/27