上場会社トップインタビュー「創」

株式会社リグア
  • コード:7090
  • 業種:サービス業
  • 上場日:2020/03/13
川瀨 紀彦(株式会社リグア)

幼心に芽生えた「社長になる」夢を貫く

川瀨 紀彦(株式会社リグア)インタビュー写真

 超高齢社会の日本。ヘルスケア産業への期待は日増しに高まっている。なかでも健康寿命をいかに延ばすかは、個々の高齢者ひいては社会全体の幸福度にもかかわる重要な課題である。
 健康寿命を延ばすためには、運動機能をつかさどる四肢や骨が衰える速度をいかに緩やかにするかがポイントだ。しかし老若男女問わず日々の生活で負荷がかかるのも四肢や骨。中高年以上で整形外科や接骨院、あん摩マッサージ等のお世話になったことがない人は少ないだろう。若い世代でもパソコン・スマホ中心の生活の弊害やスポーツ障害で問題を抱える人が増え、この分野の医療やヘルスケアサービスの需要は伸びる可能性がある。
 しかし街中にあり、気軽に通える接骨院等は個人経営や中小の経営規模の場合が多く、皆が経営のプロというわけではない。質の高い技術やサービスを持ちながら、経営課題が障壁となり、成長に歯止めがかかるのは社会的損失ではないだろうか。
 株式会社リグアは、そうした課題を持つ接骨院を中心に、主に店舗運営と財務・金融の観点から総合的に経営をサポートしている。
 社長の川瀨紀彦さんは、20代のときにリグアを創業している。
 独立志向はいつ芽生え、なぜ接骨院に着目したのか。

「母によると、幼稚園の七夕行事の短冊に『社長になる』と書いていたそうです。父に小さいころから『独立したほうがいい』と言われ、それが染みついていたのでしょう。とはいえ、真剣に考え始めたのは高校生のときです。接骨院へのこだわりのきっかけは、大学時代にアメフトで膝の後十字靭帯を損傷したことや、ほかにも様々なケガをしたことです。そのときに整形外科や接骨院、鍼灸・あん摩マッサージ等の医療やサービスに触れ、先生方にお世話になりました。その経験から健康という領域がまず浮かびました。当社のもう一本の柱は金融ですが、健康と金融は人間の生活にとって密接不可分です。健康はもちろん大事、でもお金も大事。この両輪がかみ合えば、100年以上続く会社経営ができるのではないかと思いました」

 会社経営の夢に向かって一直線に突き進んできた川瀨さん。経営を学ぶ目的を持ち、大学卒業後の会社員時代には金融とホテル再生に携わった。

「早く独立したほうが失敗してもリカバリーできるという思いがあって、金融の仕組み、ひいては会社の仕組みと運営について最短で身につけたかったのが本音です」

接骨院に必要な「経営企画室」を担う存在に

川瀨 紀彦(株式会社リグア)インタビュー写真

 接骨院の経営のサポートに着目したのは、満身創痍のなかお世話になったからだけではない。

「接骨院の先生の多くは、専門学校卒業後に接骨院等で研修を兼ねて仕事をします。その間学ぶのは技術だけで経営について学ぶ機会に乏しいのが現実です。開業してもほとんど個人事業主のままで財務や会計に長けた人は非常に少ない。私も兄と接骨院の経営をしていたときがありました。兄が柔道整復師と鍼灸師の資格を持っていたので、私が経営面でサポートしたのですが、そのときに直面した問題や課題を経験値として、マーケットが求める会社を作ろうと考えました」

 リグアの事業の柱は、接骨院等ヘルスケア産業の経営支援「接骨院ソリューション事業」と証券、保険(生命保険・損害保険)を扱う「金融サービス事業」である。接骨院にとっては、療養費の請求代行(レセプト請求業務代行等)、経営支援全般(研修等人材関連含む)、機材等の仕入れ、IT支援に加え、場合によってはオーナーの資産形成や保険のアドバイスまで、ワンストップで力になってくれる。いわば経営企画室と情報システム部のアウトソーシングと言っていい存在だ。

「ITソフトウェアについては、当社はファブレスメーカーです。ソフトウェアは常に技術革新があり、社内でシステムを構築していると追いつかない。構想は顧客ニーズを聞きながら自社で練りますが、あとはその分野に強いメーカーに外注をしています。協力会社とはステークホルダーとして長く良好な関係を築いています」

 現在、同社の取引がある接骨院は国内市場全体の約6%。これを多いとみるか、少ないのでポテンシャルがあるとみるか。ただ、川瀨さんに一貫しているのは「新規開拓はするが、むやみに顧客を増やすことはしない、経営理念が一致したり共感できたりするお客様と強固で永続的な関係を築いていきたい」ということ。
 それはスタッフの働きやすさにもつながる。

社員の人生の質を高め、会社の利益に

川瀨 紀彦(株式会社リグア)インタビュー写真

 リグアには「良心の相互創生」という経営理念がある。そのこころは「全従業員・家族の幸せを追求するとともに、豊かな良心を育み、社会の発展進歩に貢献する」。グループビジョンは、「健康寿命を延ばし、生きることを楽しむ社会へ」と外向きだが、経営理念はまず社員ありきの姿勢がうかがえる。

「理念経営を大事にしています。社員のロイヤリティーは自然に生まれてくるものではありません。社員にとって重要なのは、第一に生活が安定し安全であることです。第二に仕事を通じて人生の質が向上すること。この2つをまず考えていかないと、私がいくら健康産業をやりたいといったところで、社員の心はついてきません。当社は女性の離職率が極めて低い。多くが産休後に帰ってきてくれます。職場復帰後も柔軟性を持って時短や急な帰宅にも応じますし、キャリアも維持されます。また、全社員対象ですが、同業他社より年収を高くしたいという考えを持っています。経済的な豊かさは重要な要素です。また、がん等で休職する社員への待遇も、安心して闘病療養生活が送れるよう配慮しています。皆でお客様に喜んでもらい、利益を出して、社員に病気等で困っている人がいたら皆で助ける会社じゃなきゃだめだと言っています」

 同社では2021年3月、「健康経営優良法人2021」に認定された。

「当社は付加価値利益が高い会社です。お客様の経営と向き合う仕事でもあるので、社員の質は非常に重要で、その質を上げるためには会社がきちんと環境を整えなければならないと思います」

 大切にしていることは「良心に従って行動すること」だと川瀨さんは言う。ビジネスモデルは変革を続けなければ時代に取り残されるが、理念や在り方というものは何百年も変わらない普遍的なものだと考えている。

健康経営と金融のワンストップサービスが強み

川瀨 紀彦(株式会社リグア)インタビュー写真

 リグアの強みが、接骨院に対してのワンストップサービスというのは、前述のとおり。金融サービスについては、営業会社として子会社の株式会社FPデザインが金融商品仲介業の役割を担い機能している。同社では生損保の保険代理店とIFA(各証券会社の営業方針によらず、中立・独立的な立場から資産運用をアドバイスする専門家)による総合的なファイナンシャルプランを提案している。生損保と証券をあわせ持つ会社は少なく貴重だ。

「金融サービスのお客様は幅広く、接骨院に限りません。ヘルスケア産業の中ではクリニックや歯科医院も経営企画室的機能はほとんど備えていません。こうしたお客様も金融サービスを糸口に広げていければと考えています」

 リグアのマザーズ上場は2020年3月。奇しくも世間では新型コロナウイルス流行が本格的に始まったころだ。特に接骨院ソリューション事業に影響は大きかった。しかし高いニーズを確信する機会にもなった。

「4月からの緊急事態宣言下では接骨院に通う患者さんが減りました。しかし6月以降、患者さんが増えたんですよ。これはテレワークが進んだことで、肩や首、腰に不調を訴える人の急激な増加に起因しています。不調は喜ばしいことではありませんが、確かなニーズと支持があることの表れでもあります。これを裏付ける数値データは、約1300院に入れている顧客管理ソフトから明らかになっています」

「楽しいから経営する」領域から脱し、公の企業へ

川瀨 紀彦(株式会社リグア)インタビュー写真

 上場を目指した動機を聞いた。

「健康と金融を扱う会社としては、私の信用だけでは足りない、公の会社がやるべきではないかという思いがありました。そのためには上場して、コンプライアンスとガバナンスを強化していくことが必要。『楽しいから経営する』という領域ではないと思っています。具体的な動機は3つあります。1つは財務基盤の強化。直接金融で資金調達の選択肢が広がり、投資もしやすくなります。2つ目は認知度、信用度。上場会社の社長の言葉には重みと責任が伴う一方で、お客様側の受け止めも変わるので商談等がスムーズに進みます。3つ目は採用です。エントリー数と質が多少なりとも変わってきています」

 一方で、上場にはコストと時間がかかった。2018年の上場を目指したが、時期尚早だったと振り返る。

「関西は中小企業から地道に積み上げて上場を目指すケースが多い。当社もビジネスモデルありきの上場ではなく、会社経営の延長線上に上場があるというかたちなので、社長の属性や得手不得手を引きずってしまいました。例えば、私は営業が得意なので営業寄りになりがちだが、上場によってステークホルダーが増えれば、管理部門を確立しなければなりません。コーポレートガバナンスや内部統制といった上場会社にとって当たり前のことが当時はまだ十分ではなかったのです」

 しかし社員は一度上場がとん挫してもモチベーションを下げることなく、前を向いてくれたという。
 上場を果たした今後は、当期利益を伸ばし続けることが、株主や投資家への期待に応えることになるのではないかと考えている。

国民の健康寿命を延ばし、社会に貢献できる企業へ

川瀨 紀彦(株式会社リグア)インタビュー写真

 これから上場を目指す方へ。

「諦めないことが一番。そのうえで上場会社としてやるべきことは、コストがかかろうが、プロの指示に従って整備する、絶対やるんだと強く決意することです。また、ビジネスモデルを磨き上げることも重要。どこにでもあるものなら、いずれ淘汰されます。他社とは違う強みを確立しないと、上場してから苦しみます。そして会社の経営者は、『株式会社日本』の中の部長に過ぎないと思っています。私たち経営者がやっていることは、国民の生活を豊かにする営みです。先人が築いてきた日本経済を私たちが次世代につないでいかないといけない。これは自分に常々言い聞かせていることでもあります」

 今後のリグアは——。
 短期的には取引接骨院の拡大と隣接業界への横展開によって、より多くの人々の「健康」と「お金」の不安を解消し、人々が健康で豊かな暮らしができる社会の実現を目指す。むろんその先も見据えている。

「現在の日本の保険制度では、慢性期医療に莫大な費用がかかっています。国の政策としても予防分野の充実をはかり、一定規模以上のシフトチェンジを狙っています。つまり運動や食生活の改善により健康を維持することで、継続的な治療が必要な病気にかからない体づくりや体の不調や痛みが緩和することができる、そうした取り組みへの着目です。例えば、フィットネス事業の展開により、上場する会社も出てきました。当社も接骨院等への経営支援だけにとどまらず、複合的に人が健康を維持・増進する仕組みづくりを目指し、取り組んでいく考えです」

「人の寿命と健康寿命との差が平均で10年以上あり、厚生労働省のデータによると要支援・要介護になった理由の22%は運動器の障害なんです。当社が関与している接骨院と真のパートナーシップを組むことで、全国の国民の運動器障害へのソリューションを見いだし、人々の健康寿命を延ばすことで社会に貢献していきたいと考えています」

 その実現のためのM&Aは視野に入れているという。互いの倫理観と経営理念を理解したうえで統合効果を最大化できるのであれば、前向きに取り組んでいく考えだ。「理想論だが、それがとても重要なこと」と胸を張る。

 「息子には会社を継がせない」と取締役会で公言した。高校生の当人はどう考えているのかというと、「独立して上場する」そうだ。オフタイムも仕事をしているという川瀨さんだが、家族との時間には若い人生の後継者にエールを送っている。

(文=吉田香 写真=吉田三郎 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2021/03/08

プロフィール

川瀨 紀彦(株式会社リグア)プロフィール写真
川瀨 紀彦
株式会社リグア 代表取締役社長
1976 年
大阪府生まれ
2000 年
株式会社商工ファンド(後の株式会社SFCG)入社
2001 年
株式会社ホロニック入社
2004 年
株式会社リグア設立
2020 年
東京証券取引所 マザーズ市場へ株式上場

会社概要

株式会社リグア
株式会社リグア
  • コード:7090
  • 業種:サービス業
  • 上場日:2020/03/13