上場会社トップインタビュー「創」

株式会社ブシロード
  • コード:7803
  • 業種:その他製品
  • 上場日:2019/07/29
橋本 義賢(株式会社ブシロード)

垣根を軽やかに超えていく、革新的なIPのプラットフォーマー

橋本 義賢(株式会社ブシロード)インタビュー写真

 経済産業省が「クールジャパン室」を設置したのは2010年のこと。以来、日本の持つ多様なコンテンツを海外需要や関連産業の雇用と結びつけるべく、国家的な戦略が推進されてきた。とりわけ日本産のアニメやキャラクターはクールジャパンの象徴的コンテンツとして、国内はもちろん海外での需要獲得に大きく貢献。アニメ産業全体として市場規模は10年連続続伸、2016年度に2兆円の大台を突破してもなお拡大を続けている(アニメ産業レポート2020/一般社団法人 日本動画協会資料より)。

 そして近年、アニメ産業は「IP(Intellectual property)ビジネス」というスタイルでさらなる飛躍を見せ始めている。IPビジネスとは、アニメやキャラクターなどの知的財産権所有者がコンテンツの販売のみならず、知的財産の使用権を販売、貸与する手法を意味する。わかりやすい例が様々なアイテム、企業、業界とのコラボだ。キャラクターとプロダクト、飲食店とアニメ、TV番組と漫画とスマホゲーム、グッズやイベントの連動など。メディアの種類や展開のスキームは拡張し続け、IPの手法はコンテンツビジネスを加速させるために不可欠な要素として広く知られるようにもなった。そんなIPビジネスのフィールドで先鋭的な事業を展開し、IPディベロッパーとして確固たる地位を確立した企業が株式会社ブシロードだ。代表取締役社長の橋本義賢さんはIPディベロッパーとはいかなるものかについて、こう話す。

「ひとつは、インハウスでコンテンツの価値をゼロから高め、育ていくビジネス。どのようなメディアを利用して展開するかという選択や、市場を盛り上げる情報展開のアイデアなどがカギとなります。もうひとつは他社IPを弊社が購入したり、ライセンス使用権を購入したりすることなどによって、プロモーションのお手伝いをさせていただくケース。つまり弊社は自社所有、他社所有を問わず、IPを成長させるノウハウでビジネスを行っています。言わばIPにおけるプロモーションのプラットフォーマーですね」

 ブシロードの事業展開を一望すると、IPビジネスが可能性に満ちた分野であると感じられるだろう。2011年にリリースした対戦型カードゲーム『カードファイト!!ヴァンガード』は魅力的なキャラクターが次々登場するカード販売のほか、リアル対戦イベント、スマホゲーム、TVアニメ、ラジオ番組、コミック、スピンオフ作品の輩出といった拡大を国内外で続け、『BanG Dream!(バンドリ!)』はコミックから派生し、声優ユニットのリアルでのバンド活動、ライブ活動やスマホゲーム、TVアニメ、ラジオといったメディアに拡散。またカードゲーム『ヴァイスシュヴァルツ』では多様な人気キャラクターがゲーム上で一同に介すという画期的なコラボレーションを実現。各事業は縦横無尽の展開で世界中にファンを増やし続ける。ブシロードの発想には「垣根」という概念がまるで存在しないかのようだ。

「私たちが前職を含め大人向けのアニメ・ゲーム関連商品を手掛け始めた約20年前は、これらはコアなカルチャーで、アキバ系、萌え系と呼ばれるジャンルに位置付けされていました。ところが時代も変わり現在では、アニメ・ゲームが野球好き、サッカー好きといった趣味と同列に語られるものになっています。極端に例えて言えば、昔はアキバ系は渋谷に行かず、渋谷系は秋葉原に行かなかったのですが、今は双方が垣根も偏見もなく、多様な趣味を楽しむ時代です。一般の方のライフスタイルが昔のアキバ系と重なり合うようになってきたのかもしれません。ですからIPビジネスにおいても多彩なメディア上での展開が意味を持ちますし、市場全体としても拡大し続けているわけです」

Project1
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異端のビジネスマンが惹かれた広大な世界の市場

橋本 義賢(株式会社ブシロード)インタビュー写真

 いち早くIPビジネスの分野で先鞭をつけ、コンテンツの育成によってクールジャパンを体現するブシロード。もともとコンピュータ開発の大手メーカーに在籍していた橋本さんはどのような経緯でブシロードの牽引役となったのか、聞いてみる。

「起業への意識は学生時代から高かったのですが、具体的なイメージはなかったので、働きながら探そうと考えました。メーカーに勤めていた90年代半ばの頃、異業種交流会で知り合った木谷高明氏(現・ブシロード代表取締役会長)が、アニメの業界でビジネスを始めると聞いて、私も個人的にリサーチし始めたんです。作品自体を見たり、コミケ*を巡ったりする中で感じたのは、商業化の過程にあり海外に日本のコンテンツがまだまだ浸透していないということ。漫画、アニメ自体の魅力もさることながら、そこから派生するゲームのカルチャーも含め、当時はアンダーグラウンドな雰囲気に包まれていました。グローバルに展開できる事業をしたいと考えていた私にとって、アニメやゲームのポテンシャルは非常に魅力的に映ったわけです」
*コミックマーケットの略称

 ならばということで、橋本さんらが立ち上げたのはコスプレ用の衣装を製作・販売する会社だった。活況を呈するコミケからコスプレのカルチャーに着目。人気アニメやゲームの権利所有会社からライセンスを取得し、タイアップでイベントを開催するなどコスプレ文化を後押しした。結果、業績は伸び、会社は一旦、市場上場に向けて動き出したが、他の経営陣からコンセンサスを得られず、上場を断念。アニメやゲームの可能性に確信をもっていたこと、また事業のスケールをレベルアップするためには上場を経て企業のブランドを磨いていく必要を感じていたことなどから、橋本さんは新たな道を模索。そのタイミングですでにブシロードを立ち上げていた木谷氏の誘いに乗り、電撃的に未知の領域へ進化しようと目論む同社に合流した。橋本さんはそんな経緯を振り返りながら、現在、ブシロードが見据える未来の方向性についてこう口にする。

「ひとつはグローバルという視点ですよね。たとえば欧米では毎週末のように各地でファンによる自主的なイベントが多数開催されています。日本で約20年前に見られた光景とダブリますし、同時に市場はまだまだ拡大すると考えています。アジアも同様で、グローバル市場において弊社ができること、やりたいことが広がっています。もうひとつの視点はやはりあくまでニッチを狙うということですね。大手と同じことをやっても勝負になりませんし、そもそも私たちが面白くありません。ですから市場のメインストリームに真っ向から入ることはしません。まだ多くの人が気づいていない市場を探し出し、今までにないアプローチによって、新しいエンターテイメントを作る。それがブシロードの目指す方向なんです」

 この言葉を体現するかのような試みのひとつが、新日本プロレスとタッグを組んだプロジェクトだ。ブシロードは、観客動員の低迷やTV放映の減少などからかつての輝きを失っていた新日本プロレスを2012年に子会社化。個性的なレスラーを魅力的なキャラクターとして最大限活かし、SNSや動画配信、芸能プロダクションとのコラボで女性やライトユーザー層を取り込むことに成功。IPビジネスで培った実績とノウハウを活かし、全く新しいプロレスの楽しみを拡張し続けている。ブシロードが新日本プロレスを傘下に収めてから7年で観客動員は約3倍超、総売上高は5倍超にまで成長。名実ともに世界一のプロレス団体としての地位を確立することを目指している。

上場を起爆剤に、事業をマイナーからメジャーへ

橋本 義賢(株式会社ブシロード)インタビュー写真

 前職での上場の断念がひとつのキッカケとなりブシロード参画を果たした橋本さん。2019年7月にはブシロードをマザーズ市場に上場させ、さらなる進化の道へ歩を進めた。上場の意図について、あらためてこう振り返る。

「私たちはサブカルチャーを長年、扱ってきました。新日本プロレスにしてもグループ傘下に収めた当時はまだまだアングラな雰囲気の漂う、エッジの効いたコンテンツという印象が強かったように思います。そんな背景もあって、プロレスには大きなスポンサーさんについていただくことが難しかったのです。そこで上場によって、弊社の扱うエンターテイメントはすべて王道であり、メジャーになりうるものだと示したかった。またIPを推進する企業としてM&Aを加速させていこうと考えた時、上場による資金調達は間違いなく有利に働くとも思いました」

 上場は、ニッチな世界からメジャーの舞台へ躍り出るために不可欠な一里塚。グローバル市場で革新的なビジネスを推進していく上でも、上場は予想通り吉と出た。

「採用の質は間違いなく上がっていますし、コラボレーションを持ちかけてくる相手先も大手が増えました。一方で社会の公器であるという意識はもちろん強くなり、自分のエゴで経営してはいけないと日々、自分をいましめるようにもなりました。コラボ相手やファンにとってのメリットは何か、社員の幸せとはどういうものかについてしっかり配慮し、経営していくことが大切なんだと」

 上場は決してゴールではなく、新たなスタートを切るための必要条件だと話す橋本さん。これからの起業家に対してひとつのアドバイスをもらった。

「ESG*経営は上場企業にとって必須です。そのような視点でビジネスを推進していく心構えが、上場を目指す企業のトップには求められるとつくづく感じます。そして企業を成長させることが社会貢献につながっていく。ですから自らが身を置くのは成長市場か否かを見極めることがとても大切ですね」
*Environment=環境、Social=社会、Governance=ガバナンス

コロナ禍で見出した、新しい市場

橋本 義賢(株式会社ブシロード)インタビュー写真

 他社に先駆けて新しい事業を生み出すには、社内にある良いアイデアの芽をしっかり育てていくことが肝要となる。なおかつ多様なメディアでの展開を実現するためには社内のチーム同士が有機的に連携していくことがなにより大切だ。こうした社内文化を醸成するために、ブシロードはどのような組織を構築しているのか。橋本さんはこう答える。

「組織内の壁をなくすためには、全員がブシロードの社員であるという意識を持つことが大事だと考えています。たとえば株式会社ブシロードミュージックと株式会社ブシロードメディアは別の会社ですが、給料の原資はいずれもブシロードが持つコンテンツです。またチームの業績ではなく全体の業績によってボーナスを計算する方式なので、不公平感はありませんし、そのような工夫によって横連携もスムーズにできていると感じています」

 また、会社から半径2km以内に住んでいる場合は一律3万円を支給するというユニークな制度もある。勤務先の近くに住めば通勤時間を節約できる分、自分の時間を様々なエンターテイメントに費やせる。さらには勤務時間外の社員同士のつながりも深く、濃くなり、チームワークは自然と強固になっていく。優秀な社員たちが未来のビジネスの種を自ら探し出し、有機的な連携によって会社全体のエネルギーにしていくという道筋ができあがっているのだ。

「奇策、奇襲攻撃が好きですから(笑)。これだけ情報過多な現代社会においてどうすればお客様に振り向いていただけるか。ですから声優さんにバンドを組んでもらおう、アニメの主役にもなっていただこう、その世界観をゲームやラジオでも楽しんでもらおうという発想が生まれ、プロジェクトとして実現し、この目新しさがまた新たなファンに振り向いてもらうことへとつながっていく。多くは10代、20代のファンにどう注目してもらうかというビジネスですから、若い社員の意見も尊重し私自身が企画自体に口を挟むとかストップをかけるということはしないようにしているのも、会社にとってプラスになっているのかもしれません(笑)」

 コロナ禍によって新たな可能性も見出した。リアルで開催予定だったイベントをオンラインで配信していくうちに、全く新しい市場が眼前に広がっているのに気づいたという橋本さん。オンラインでのイベント展開は今後、ブシロードの強力な武器となっていきそうだという。

「コロナ以前はライブといえば会場に来ていただくことだと思っていましたので、まさか有料配信でファンの支持を得られるとは考えていませんでした。でも、コロナ禍で配信をしてみると実に多くのファンが見てくれていることが分かり、しかも有料ユーザーのうち約1/4が海外の方であることも驚きでした。まったく新しい市場がいきなり現れた感覚ですし、オンラインによってグローバルな展開を益々、加速できると確信できたのです」

 話を聞けば聞くほど、ブシロードのビジネスには未知の可能性が秘められていると感じる。エンターテイメント業界に新風を吹かせ続ける同社の新たな一手はどのようなものになるのか。世界中のファンが、橋本さんのタクトさばきに熱い視線を注いでいる。

(文=宇都宮浩 写真=朝岡吾郎 編集責任=上場推進部"創"編集チーム)2021/02/19

プロフィール

橋本 義賢(株式会社ブシロード)プロフィール写真
橋本 義賢
株式会社ブシロード 代表取締役社長
1964 年
栃木県生まれ
1987 年
慶応義塾大学理工学部を卒業、日本アイ・ビー・エム株式会社入社
1995 年
株式会社コスチュームパラダイス(現株式会社コスパ)設立、代表取締役社長就任
2001 年
株式会社タブリエ(現 コスパグループホールディングス株式会社)設立
2012 年
株式会社ブシロード顧問
2015 年
同社取締役就任
2017 年
同社代表取締役社長就任(現任)
2019 年
マザーズ上場

会社概要

株式会社ブシロード
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  • コード:7803
  • 業種:その他製品
  • 上場日:2019/07/29