上場会社英文開示インタビュー

株式会社カオナビ

株式会社カオナビは、ITエンジニアや人事部門責任者としてのキャリアを積んだ創業者が2008年に設立したクラウドサービス企業です。人材情報をクラウド上で一元管理し、データ活用のプラットフォームとなるタレントマネジメントシステム『カオナビ』は、業種・業態を問わず2,400社を超える企業や団体に導入されています。
IRの英文開示に2019年の東証マザーズ上場当初から取り組んでいる同社の取締役CFO・橋本公隆さんに、英文開示の動機や具体的な取り組みについてお話を伺いました。

海外投資家に不公平にならない情報開示が必要

英文開示を実施することにした背景について教えてください。

当社はサブスクリプション型のビジネスモデルのため、赤字が先行するという特徴があります。当時は、赤字というだけで国内の機関投資家や個人投資家から敬遠されましたが、海外の機関投資家はビジネスモデルへの理解が深く、バリュエーション次第では投資対象になり得たため、外国人の方々に会社を知ってもらい、理解してもらうためにも英文開示が必要と考えました。英文開示は上場時(2019年)から実施しています。

英文開示の対象範囲はどのように決めたのでしょうか。

外国人にとってなるべく不公平にならないような情報開示が必要と考え、まずは決算短信、決算説明資料、適時開示資料を英訳することにしました。そのほかに決算説明会の議事録も日英で開示しています。

英文開示の実施体制を教えてください。

適時開示資料のうち、RS(譲渡制限付株式)など専門的な内容については外部の専門家に英訳をお願いしていますが、それ以外は自分も含めたIR担当の2名で対応しています。そのほか社内スタッフ1名にネイティブチェックをしてもらっています。英文資料を外部任せにして開示することにはリスクを感じるため、社内にネイティブチェックができるメンバーがいるのは恵まれていると思います。

英文資料の作成から開示までの流れを教えてください。

IR担当が、日本語の資料を作成した後に英訳を行い、2~3日の余裕を持たせて社内スタッフにネイティブチェックを依頼し、日英同時に開示しています。英訳することを前提に日本語の資料を作成することが英文資料作成のコツだと思います。日本語だけだと曖昧な表現になったり、文章が長くなってしまいがちですが、英訳をする前提で日本語を書くと、シンプルな表現でメッセージが伝わりやすくなりますし、当然、英訳も楽になります。
決算短信や決算説明資料は、一度英文のフォーマットを作成すれば、基本的にはアップデートをするだけなので、そこまで手間はかかりません。

日本語資料と同時に英文開示をするために、どのような工夫をされているのでしょうか。

日英同時に開示するためには、数字以外の個所で日本語資料の内容をなるべく早い段階で固めることが重要だと考えています。基本的には、日本語資料の内容を固めてから英訳に取り掛かり、数字を反映させれば完成という状態にしておき、日本語の修正が必要になった場合は、並行して英訳の修正を行います。

知名度向上に向け海外投資家との対話も積極的に実施

海外投資家向けIR活動についてどのように取り組まれてきましたか。

(出典:株式会社カオナビウェブサイト(英文)トップページより)

上場直後から知名度を高めるため、カンファレンスへの参加など積極的に投資家との接触機会を持つように努めました。投資家とつながると、そのつながりで別の投資家から問合せを受けることもあります。そのようにして少しずつ知名度を上げていきました。
面談に至る経緯は、直接の問合せもあれば、証券会社経由で依頼がある場合もあります。また、証券会社に空き時間のスロットを渡して投資家との面談設定を依頼したり、証券会社主催のカンファレンスに参加するなど、なるべく多くの面談を入れています。投資家層拡大のため、幅広い投資家にアクセスして当社を見てもらう環境づくりが一番大切だと思い、面談の数を増やすようにしています。国内外の投資家と四半期で60~70件ほどの面談を行っていますが、数は海外の投資家のほうが多いです。
面談は、基本的にマネジメントが実施しています。上場したばかりの会社の場合は経営者を見て投資判断されることが多いので、当社も上場当初はCEOの出席率を意図的に高めていました。最近ではCEOの時間を事業戦略やプロダクト開発などに多く割いているため、CFOがメインで対応しています。海外投資家との面談では、決算説明資料の英文資料を用いて説明しています。

海外投資家との面談時には通訳も同席しますか。

証券会社経由の面談は証券会社側で通訳を準備し、機関投資家から依頼の場合は機関投資家側で準備してくれます。面談時のコミュニケーションで今まで問題となるような場面はなかったです。

面談を行う投資家はどのように選んでいますか。

面談する相手に制限は設けておらず、面談リクエストがきた全ての投資家と会っています。ロングオンリーの投資戦略の投資家に株式を保有してもらえると株価は安定するものの、市場に出回る株式が少なくなり流動性が低下するため、ヘッジファンドのようなロング・ショート戦略の投資家に売買してもらうことも大事だと思います。

貴社の情報開示ついて、海外投資家からはどのような評価を受けていますか。

国内外の投資家問わず、決算説明資料が分かりやすいとの評価をいただいています。KPI含めて必要な情報は開示されているので、事業状況は1on1ミーティングをしなくても分かるとおっしゃる方もいます。ただ、現状に満足せず、今後も情報開示のレベルや透明度を高めていくつもりです。

海外投資家との対話を通じて何か気づきはありましたか。

業界動向や事業戦略、ガバナンスなど色々と有益なコメントやアドバイスをもらいましたし、会社の中長期戦略を理解しサポートしてくれることは励みになります。一方で、国によって社会や文化が異なることにも改めて気づきました。今では少ないですが、上場当初は人材情報がデータ化されて活用されていないという日本の現状を信じられないという投資家も多く、プロダクトへの理解のハードルが高かったと記憶しています。

外国人投資家比率の向上は英文開示の1つの成果

英文開示のメリットや効果はどのようなことだと思いますか。

海外へのオファリングなしで外国人投資家比率が20%の水準(2021年9月末時点:20.8%)まで上がったことは一つの成果と考えています。実施するかどうかは別として、海外公募増資などファイナンスの選択肢が増えることは、英文開示を通じて潜在的な株主層を拡大したり、外国人投資家比率を高めたりすることのメリットだと考えています。

英文開示やIR活動に関する今後の方針を教えてください。

株主総会の招集通知が日本語のみとなっているので、英文の招集通知も準備したいと思っていますし、アニュアルレポートなどの英文開示も今後検討していきたいです。また、プライム市場上場会社とのギャップを埋めていけるよう、例えばサステナビリティに関する開示など、きちんとストーリーを作って投資家に説明できるようにしていきたいです。

英文開示の開始や拡充を検討している会社へアドバイスはありますか。

大事なのはコンテンツであり、まずは日本語の開示資料をしっかり作成することが大切だと考えています。本質の部分をおろそかにすると、せっかく英訳しても中身がないですし、費用対効果が見合わないと思います。

(取材日:2021年12月14日)