上場会社英文開示インタビュー

エリアリンク株式会社

国内ストレージ業界最大規模の約10万室のストレージ(トランクルーム)を運営するまで成長したエリアリンク株式会社。海外投資家が大株主となった2011年ごろから英文開示へ本格的に着手し、投資家の裾野を広げるべく、社長を筆頭として新たな海外投資家との対話にも取り組まれています。
同社の取締役管理本部長兼経理部長の大滝保晃さんに、英文開示の方法と合わせて海外IR活動の内容や今後の方向性を伺いました。

日英同時開示が、株主にとってフェア

英文開示・海外IR活動を始めたきっかけを教えてください。

英文開示を本格化させたのは、米国の投資家が大株主になった2011年あたりからです。海外の方が株主になったことで、株主との英語でのコミュニケーションをとる必要性が増したと同時に、IRの在り方についても考えるようになりました。当社の基幹事業であるストレージ事業は、日本では比較的珍しい事業ですが、欧米では一般的なサービスであり、当地の投資家にとっても受け入れられやすいのではないかと考え、海外IR活動に取り組むようになりました。

英文開示を始められた頃には、具体的にどういったことをされましたか。また、現在では日英同時に開示されていますが、どういったお考えからでしょうか。

一気にすべての開示資料を英訳するには労力もコストもかかります。まずは四半期決算の短信と説明会資料から始め、その後に決定事実など他の適時開示にも広げていくという流れで取り組みました。日英同時開示については、同時開示が株主にとってフェアであるという当社の考え方に由来しています。とはいえ、日本語と英語との開示体制を踏まえ、翻訳の精度を維持できる範囲で行っています。

現在の英文開示までのプロセスを教えてください。

IR担当である私と、経理部門との連携や外注を有効に利用することで補っています。英文開示に当たっては、翻訳前にまずは日本語のベースを固めることを優先しています。日本語の開示内容が体系化されていれば、ある程度過去事例が参考になるので、一からの翻訳を行うことが少なく、修正も最小限で済みます。

日本語の開示自体が直前まで定まらないために英文開示が遅れてしまうという話を聞くことがありますが、その点はどういった工夫をされていますか。

直前まで固まらないのは、ほぼ数字の部分です。基本的には数字を書き換えるだけで済むように日本語の開示資料を作成しています。あらかじめ日本語の精度を高めておくことが重要と感じています。

英文開示が海外投資家との対話に与える影響について、どのように感じていますか。

英文開示の充実に伴い、海外からの面談依頼件数が増えています。当社は英文開示の満足度や補足すべき点について、面談した海外投資家にヒアリングしながら改善に取り組んでいます。最近は直接の対話の中で、こういったデータを入れてほしいというような中身のアドバイスを受ける傾向にあり、こうした対話を通じた英文開示のブラッシュアップが、更なる英文開示の満足度向上に繋がっていると感じます。

市場評価を変えるには、情報発信が重要

海外投資家との面談はどのようなメンバーで対応されていますか。

1対1の面談については、代表取締役社長と私が対応しています。リモートでの面談も増えていますが、最近では海外投資家が来日しての日本での面談が再開され、逆に当社から米国に訪問してIR面談も行いました。今後も年に1、2回程度は海外での面談を検討しています。

代表取締役社長が対応されるのですね。

以前はIR担当だけで対応することもありました。2023年3月に代表取締役社長が交代しましたが、海外投資家からは後任の社長がどのような考えを持っているか直接話を聞きたいという要望もあり、直接対話してもらうようにしています。経営トップが直接対話する体制をとることも、投資家の関心を引くポイントになると考えています。また、社長自らがIRの現場を見て、ステークホルダーに情報発信する機会を持つことが、経営戦略を考える一助になると思います。

既存の株主以外に対しては、どのように投資家層の拡大を図っていますか。

英国のリサーチ会社に依頼し、中小型株に投資を行う海外投資家の紹介を受け、面談を始めています。欧州の投資家の紹介が多く、実際に英国の投資家とは面談を重ねた結果、新たな投資につながりました。

海外投資家のすそ野を広げる取組みも積極的に行われているとのことですが、海外IRに注力する狙いはなんでしょうか。

以前は業績を上げれば株価が付随して上昇すると考えていましたが、今では、当社の事業規模や事業特性で知名度を上げることは難しく、みずから情報発信に取り組んでいかなければ市場評価は変化しないと認識しています。当社はまだ海外投資家の比率が2割程度に留まっており、もっと海外投資家にアピールして投資を呼び込んでいきたいと思っています。

国内外双方の投資家と対応して違いを感じることはありますか。

私たちが対面する海外投資家は、実績や計画に対する根拠やデータについてより細かく質問される傾向にあります。その場合は補完するデータをそろえて、新たに開示するか、既存の開示資料に要素を追加するようにしています。現状、当社は成長を加速しているフェーズですが、業務面についての情報発信はさらに注力していく必要があると思います。

海外IR活動を通じた投資家との対話は経営にもプラス

対話によって把握した事項は、経営陣にどのようにフィードバックしていますか。

社内のIRミーティングで伝えています。社内で考える論点と、社外から見える論点は異なり、例えば海外IRの中で為替リスクの指摘を受けたことがあるのですが、社内では挙がってこなかった論点でした。こうした海外投資家の意見は開示資料への反映や、事業の方向性を考える一助にもなっており、ただ業績を上げれば良いという考え方から経営陣の意識も変わってきていると感じます。

開示の充実に関する今後の方針を教えてください。

今まで発行していなかった統合報告書の作成を進めています。また、今後は有価証券報告書の全文英訳化の検討をしています。海外IRはこれまでは米国が主でしたが、今後は対象先を欧州やアジアにも広げていきたいと考えています。

これから英文開示や海外IR活動の拡充を考える会社へのアドバイスはありますか。

英文開示を契機に海外に出向き、投資家と対話することは、日本にいる時とは異なる論点について考えさせられる機会になります。資金調達や経営計画策定とは直接的に結びつかない内容であっても、経営にプラスになる面はあると思います。英文開示は、直ちに海外からの投資を呼び込めるような即効性のある取り組みではありませんが、地道に継続できるところからまずは始めることが大切ではないでしょうか。

(取材日:2023年9月20日)