上場会社英文開示インタビュー

株式会社GA Technologies

不動産業界をテクノロジーの力で変えるべく10年前に創業した株式会社GA Technologiesは新規上場を果たした2018年から不動産テック企業への投資に知見を有する海外の投資家に目を向け、積極的なIR活動を展開しています。
同社Management Strategy Division Investor Relations Departmentの渡辺聡子IR部長に、英文開示を始めた経緯やその効果、今後の方針について伺いました。

海外投資家比率増の目標に向け英文開示の範囲を拡大

英文開示を始めたきっかけを教えてください。

当社の上場は2018年7月ですが、当初から海外投資家に向けたIR活動を行っており、証券会社の海外カンファレンスに参加する等、積極的に活動していました。カンファレンスに参加する際には英文資料を持参する必要があり、日本語で作成していた上場時の成長可能性に関する説明資料や決算説明資料を翻訳したのが始まりです。

上場当初から海外投資家向けIRを意識されていたのはなぜですか。

当社のような不動産テックの上場会社は日本では少ない一方、海外では有名な不動産テックベンチャーが複数上場しています。それゆえ海外投資家の方がビジネスモデルの理解が深く、当社の事業についてもより適切に評価いただける可能性が高いと感じ、当初から海外投資家比率の向上をIRの目標の1つとして掲げました。その実現のため、英文開示に着手したという経緯です。

開示資料の日英同時開示に取り組まれていますが、IRの体制について教えてください。

IRの体制として、当初は1人体制であったのですが2021年からは2人体制となり、今は3名体制で対応しています。英訳については翻訳業者に依頼しておりますが、作成された英文原稿に対する英訳チェックはIRのチームで完結できるようにしております。

翻訳範囲に関する考え方をお聞かせください。

開示範囲は、海外投資家比率を上場から3年で20%にする目標の下、まず決算短信と決算説明資料の英文開示を始めました。その後は日本の不動産事情がわからないという海外投資家の声を踏まえ、日本の不動産マーケットや当社のビジネスモデルをわかりやすく記載した資料の作成やM&A時の案件説明資料等も英訳しました。また、2021年には、新規の投資家に向けたコーポレートストーリーや株主総会招集通知の英訳も開始しました。そうした取り組みもあり、2021年には海外投資家比率が25%に到達しました。2022年からは、TDnetで開示する適時開示についても全て英文開示することとし、また、ファクトブックも日本語と英語を併記する形に変更しました。

2021年には公募増資を実施され、海外投資家への販売も行っていらっしゃいますが、英文開示が進んでいないと海外投資家への販売は難しかったでしょうか。

はい、そう思います。公募増資のロードショーでは、スモールミーティングを含めると1週間で数十人の投資家とミーティングをしましたが、実際に公募増資に応じてくれた投資家の約半分は過去に複数回ミーティングをしていた方々でした。従前よりきちんと英文開示をし、日頃から海外投資家とコミュニケーションを行うことが重要であるということの証左と考えています。

英文開示をしない選択は機会損失につながる

海外投資家との面談はどのようなメンバーで対応されていますか。

1対多数のスモールミーティングなどは全て社長が対応しています。1対1の面談はケースバイケースですが、当社の理解が進み、成長性を見てもらいたい場合や、創業者に会ってみたいというオファーがあれば、社長が会うようにしています。また、初回はIRが担当し、2回目以降の面談で、細かい財務戦略を聞きたいという場合は、CFOが対応しますし、それぞれ面談の中で何を知っていただきたいかを考えて対応者を決めています。

新規の投資家開拓はどのようにされていますか。

例えば国内外の企業で当社と同規模の時価総額、同じセクターの会社に投資している投資家リストを作り、過去に面談を行ったことのない投資家については証券会社等の協力も得ながら、当社からアプローチしています。また証券会社が主催するカンファレンスでは、新規の投資家と面談を行うことができる機会も多く、新規の投資家の開拓には有効な手段と感じています。また、少数の投資家を集めて開催するスモールミーティングは、当社に関心を持ち始めた新規の投資家にアクセスする機会となっています。

英文開示にはどのようなメリットがあると思いますか。

むしろ英文開示をしないことが、会社・投資家双方のデメリットになると思います。投資家は非常に多忙なのでわざわざ日本語を翻訳する時間はなく、英文開示がないとそもそもグローバルな投資家の投資ユニバースに入りません。仮に投資されたとしてもディスカウントせざるを得ないことやIRミーティングの事前準備ができず対話が進まなくなるのは残念なことです。上場後は日本のみならず世界にマーケットが広がっているのに、日本語でしか資料を開示していないのは、適切な株価評価を通じた時価総額の上昇や、成長性の観点で機会を損ねており、非常にもったいないと感じております。

多くの海外投資家に日本市場を注目してもらいたい

より良いIR活動のために気をつけていることはありますか。

より良いIRにするために投資家との対話の質を上げることが重要と考え、ミーティングの際にはこちらからも投資家に質問を投げかけております。例えば決算説明資料に足りていない情報はないか、どのようなKPIがあれば分かりやすいか、どのような情報の充実が望まれるかといった話は頻繁にしています。それらの対話からの気づきを資料のアップデートに役立てています。また、投資家からの声は毎月開催している取締役会において、IRの実施報告と共にレポートとして経営層に報告しています。

今後の英文開示の方針を教えてください。

まだ英文開示を行っていないコーポレート・ガバナンス報告書や、日本語でも作成していないサステナビリティレポート等の資料も、今後作成し開示していきたいと考えています。有価証券報告書でも記載が求められるようになったサステナビリティに関する報告、人的資本に関するデータの開示についても適切に作成していく方針で、こうしたものを日本語で作成した際には必ず英文開示も行う考えです。また、より質の高い英文開示をしたいという考えから、Fincity.Tokyoの英文情報開示支援プログラムにも申し込み、支援対象として選定されました。これまで決算短信はサマリーのみを英訳し開示していましたが、これを機会に全文を英訳し開示する方針です。

これから英文開示を開始したり拡充を検討している会社へのアドバイスはありますか。

繰り返しになりますが、英文開示をしないのは本当にもったいないと思います。せっかく日本語で決算説明資料を作っているのであれば、英訳をして世界に発信したほうがより多くの投資家に自社の状況を伝えることができ、作成のしがいがあるのではないでしょうか。いきなり決算説明資料の英文開示を始めるが難しいのであれば、決算短信の抜粋からでも、まずは英文開示に着手し、少しずつ進めることができればよいと思います。英文開示を行わないだけで投資対象から外れるのは機会損失であり、多くの海外投資家に日本のマーケットを注目してもらえれば、それがひいては日本の市場全体の評価の押し上げにもつながるのではないかと思います。

(取材日:2023年9月27日)