上場会社英文開示インタビュー

HENNGE株式会社

1996年の創業以来、「テクノロジーの解放(Liberation of Technology)」の実現を目指し、時代に合わせて事業領域を変化させているHENNGE株式会社。現在B2B向けのクラウドセキュリティサービスを主力事業とする同社は、社員のダイバーシティや海外事業展開を図るなかで、2013年には英語公用語宣言をし、日英同時開示にも取り組まれています。
自身も積極的に海外投資家と対話をするという同社執行役員CFOの小林遼さんとIRを統括する片岡茜子さん、メンバーの黒滝知優さんに、英文開示の体制やメリット、今後の方針について伺いました。

社内公用語が英語、社員向けの情報発信の観点でも英文開示が必須

英文開示を始めたきっかけを教えてください。

片岡さん:当社は英語が公用語で、社内には様々な国や地域をルーツとする社員がいます。開示資料は社員向けの情報発信としても利用しており、そういった社員に対しても、英語で開示することで自社の情報を伝えています。また、当社は経営理念である「テクノロジーの解放」を実現するべく、事業を推進しておりますが、当社の状況をより多くの方により深く理解いただくためには、日本語だけでなく、英語での情報開示も行っていく必要があると考えています。私たちの活動を世界中の方々に広くお伝えし、将来、当社の株主や顧客になってくださるかもしれない海外の方々に対して当社について理解していただけるよう、英文開示を始めました。

御社は日英同時開示を基本とされていますが、開示資料の作成体制と工夫されている点についてお聞かせください。

黒滝さん:IR担当者4名で、日本語と英語の資料を同時並行で作成しています。AI翻訳などは使用しておらず、英文資料については社内で作成しています。また、日英同時開示を実現するために、資料の作成については早いタイミングから着手しています。投資家に必要な情報を確実に届けることが目的ですので、文章量は増やさずに簡潔に記載することを心がけ、内容の充実と効率的な資料作成を意識しています。

英文開示を行うにあたり、特定の個人への依存リスクについてお伺いすることがありますが、特定の個人への依存リスクを低減するために行っている取り組みはありますか。

片岡さん:上場した当時はIRの担当者が1名しかおらず、英語対応を含め完全に個人に依存している状況でした。上場後、英語対応を含め、IRの体制を強化するために採用を行い、現在ではあまり個人に依存することはなくなっています。また、社内の公用語が英語のため、英語ができるIR人材の採用については社内での理解を得やすかったと思います。

海外投資家向けのロードショーや面談の際はどなたが対応されますか。

片岡さん:ケースバイケースで通常の面談についてはIR担当者が対応していますが、社長やCFOが対応することもあります。長期計画の説明は主に社長の小椋が行っています。小椋は英語を苦なく話すことができるため、面談においても自分の言葉で会社の考えを伝えています。CFOの小林も英語での面談に支障がないため、先方の要望によっては小林が対応することもあります。自分たちの言葉で伝えることに重きを置いているため、投資家との面談では通訳を使用していません。

株主のダイバーシティが健全な株価形成につながる

海外投資家に対するIRの目的を教えてください。

片岡さん:最大の目的は流動性の向上です。投資家によって運用方針は異なります。長期で保有いただく投資家だけではなく、短期保有を望まれる投資家にも保有いただき、多様な地域・属性の投資家に当社の株主になっていただきたいと思っています。株主が特定の属性に偏ってしまうと、特定の属性の投資家の投資行動に影響を与える環境変化が生じた際に、株主の多くが同じような投資行動をとることで流動性が低下してしまうおそれがあります。そのため、株主のダイバーシティを拡大することで、健全な株価形成につながると考えています。

海外投資家比率が30%を超える時期もありましたが、海外投資家比率に対する考えはありますか。

小林さん:海外投資家比率は、マクロ経済やSaaSビジネスを取り巻く環境の変化など様々な要因の影響を受けます。当社の海外投資家比率が高まった背景としては、米国に上場するSaaS企業の日本版として、海外投資家に理解されたことも大きな要因だと考えています。ただ、米国上場SaaS企業の日本版との理解だけでは、同業企業の動向に当社の株価も大きく影響されてしまいます。そこで当初は海外投資家のメインであった北米だけでなく、他の地域の海外投資家や国内の投資家にアプローチするなど、株主のダイバーシティを意識しながらIR活動を行っています。また、一度投資を行っても売却して当社の株主ではなくなってしまう投資家もいらっしゃいます。そうした投資家に、再度当社の株主となっていただくためには、英文開示により十分な情報を提供し、当社に興味を持ち続けていただくことが重要と考えています。海外投資家比率が高まることで、株主のダイバーシティが進み、流動性の向上にも繋がるので、その観点では海外投資家比率が上がる局面もあるといいなと考えています。

さらなる情報発信について、海外投資家からリクエストを受けたことはありますか。

片岡さん:英文開示だけに関連した話ではないですが、英語公用化など、企業文化についてはIR資料で深く説明していないため、特に海外投資家に対して面談で説明するともっと積極的に情報発信すべきとのコメントをいただくことがあります。そのため今後は当社の企業文化の発信等により、定性的な当社の強みについても理解を促進していきたいです。

開示資料の充実にゴールはない

今後の方針を教えてください。

片岡さん:開示資料の充実にゴールはありません。有価証券報告書など、まだ英語で開示することができていない資料もありますし、今後も継続した情報発信を行っていくことを考えると常々チャレンジが待っています。そのため、英文資料作成の効率化やIRチームの拡充も行いながら、開示資料の充実に取り組んでいきたいと考えています。

英文開示の開始や拡充を検討している会社へアドバイスはありますか。

片岡さん:英文開示は、より幅広い層の投資家にアプローチするための手段です。日本語でしか開示をしていなかった場合、アプローチができるのは日本語ができるごく少数の投資家に限られてしまいます。英文で開示をすることによって、当社に興味を持ってくださる方、株主になってくださる可能性のある方が増え、流動性の拡大に必ずつながると考えています。

小林さん:企業によっては、英文開示から直ちに恩恵が得られない場合もあるかもしれません。それでも英文開示は長期的には企業に利益をもたらすものと考えており、できることからでも、英文開示を始めた方が良いと思います。アプローチできる投資家層も広げるためには、スモールスタートで、できるところから始め、既存の取り組みの効率化も図りながらできることを増やしていくことが重要です。

(取材日:2023年10月20日)