上場会社英文開示インタビュー

株式会社丸井グループ

丸井グループは、共創サステナビリティ経営を推進し、企業価値向上に向けてESG(環境、社会、ガバナンス)情報の開示も積極的に行うディスクロージャー優良企業として国内外の投資家から高い評価を受けています。経営危機からの脱却後の2014年にIR活動を再開し、英文開示にも本格的に取り組み始めたという丸井グループ。IR部 IR担当 課長の沓掛奈保子さん、ESG推進部 ESG推進担当 課長の村上奈歩さん、ESG推進部 ESG推進担当 桑江真莉子さんに、英文開示を始めるきっかけや社内体制、ESG情報の開示の充実の経緯についてお話を伺いました。

「企業価値至上主義」への転換点で英文開示を推進

英文開示を充実することになった経緯について教えてください。

村上さん:当社ではしばらくIR活動自体を縮小していたのですが、経営危機から脱却した2014年頃よりIRを本格的に再開し、10年以上中断していた海外IRも同じく再開しました。国内外の投資家と積極的に対話を行うようになり、企業と株主を巡る環境が一変していることを体感しました。その変化とは、「業績至上主義」から「企業価値至上主義」という考え方への変化です。投資家は短期的な目線から中長期的な企業価値に評価が変わったと感じ、統合レポートや英文開示を進めるべきと考えました。
まず企業価値を高めるための投資家との対話のツールとして、統合レポート(共創経営レポート)を作ることにしました。この話を進めていくなかで「共創経営」というコーポレートブランドの考え方が生まれました。この考えを反映するためコーポレートサイトの刷新を検討し始めたのが2015年の春頃です。その後、2016年3月期の共創経営レポート発行に合わせて、2016年の秋に、企業情報やIR、採用サイトを一新。それをもとに同じ内容で英文サイトを作成しました。さらに、2016年の冬に、サステナビリティレポートの発行に合わせて、サステナビリティサイトの和文と英文を同時に作成しました。
2017年夏からは日英両方の言語で併記したESGデータブックを公表しはじめ、2019年5月からは有価証券報告書の英文開示を始めました。

村上さん:ESG推進部としては、投資家との対話や企業価値向上のためにどう取り組むかという議論を経て、ESGインデックスへの組み入れを狙うこととなりました。そのため、グローバルなESG評価機関、例えばFTSEやMSCI、DJSIなどからの評価を意識しており、これらの評価機関や海外投資家に当社を見ていただき、フィードバックをいただくためにも、当社の提供する資料が英語であることは重要だと考えています。英文サイトを作る際は、サイトの情報量自体が多いためミニマムなものにするかについても議論しましたが、フェア・ディスクロージャーの観点や、海外投資家はコーポレートサイトの情報を検索して、それをベースに投資を検討することが多いことを考慮し、最新情報だけでなく過去の全情報をストックすることがコーポレートサイトの役割と位置付けて、日本語サイトと同じ情報量にすることにしました。

用語の整合性をとり、揺らぎのない開示を意識

英文開示の実施体制について教えてください。

村上さん:決算短信は財務部、株主総会招集通知は総務部など、開示資料の所管部署は多岐にわたっていますが、英文開示についても各々の部署が対応しており、どの部署も基本的には、英文資料の作成を外部に委託しています。英訳の費用は、それほどの負担感はありません。

沓掛さん:IR部では、決算説明会資料や質疑応答の議事録、決算説明会の動画などを担当していますが、2名ほどで英文開示の対応を行っており、外部委託し、納品されたものの確認を行っています。第2四半期と本決算の決算説明会資料は日本語の内容が固まるタイミングが決算発表の直前になるため、決算発表後に英訳の依頼をしていますが、第1四半期、第3四半期の決算補足説明資料は、文量が多くないため、第2四半期と本決算の決算説明会資料をベースに、自社で英訳しており、日本語と同時に開示しています。

納品された英文資料を確認する際に、留意されている点はありますか。

沓掛さん:事象の前後関係の都合で、違った意味で訳されている箇所などがあれば、自社で修正しています。また、当社でよく使用する言葉、例えば「信用の共創」などは統合レポートとの表記の揺らぎがないように統一する修正をしています。統合レポートの内容を正としていますので、そこに含まれるキーワードに関して、日本語と英語がどのような対応関係にあるかを抜き出してエクセルにまとめ、リスト化し、容易に確認できるようにしています。

海外投資家向けのIR活動について教えてください。また、ESGの観点で意識されていることはありますか。

沓掛さん:年間約300社と面談を行っていますが、そのうち約100社が海外投資家で、証券会社経由で依頼される場合と、当社からお願いするパターンがあります。現在はオンラインで面談し、通訳の方にも同席いただいています。面談のアプローチ先の選定に際しては、前提として、当社に興味があり、当社の株式を長期間保有していただけそうかという観点を考慮しています。ESGの側面から当社に興味を示していただけるか、ということも考慮する観点の一つです。

海外投資家との対話のため、英文開示は大前提

ESGの情報開示について、海外投資家からはどのような評価を受けていますか。

村上さん:積極的に取り組んでいるという印象を持っていただけていると思います。ESGの情報開示については、ESGインデックスへの組み入れを意識し、ESG評価機関の指摘を踏まえて開示すべき内容などを見直してきており、日英を問わず、開示を拡充してきています。

ESGインデックスの組み入れに向けて、具体的にどのような点を意識されていますか。

村上さん:ESGインデックスの組み入れは、様々な項目で評価されるため、評価内容をしっかりと分析しています。まずは取り組み自体を拡充し、会社が良い方向に動くことが先で、その後、実際に行った取組みや結果を開示するという形でPDCAを回しています。
海外投資家は掲げているコミットメントやコードオブコンダクトを重要視する傾向にあるとのことでしたので、当社の方針の新設や改訂を行いました。例えば人権方針や環境方針は、丸井グループとしての考え方がより伝わるように改訂しました。評価機関から「カーボンニュートラルへの道筋があるか」といった質問も増えてきていますので、前提となる考え方をしっかり示すことも重要だと思っています。

桑江さん:ESGインデックスの組み入れに際して、評価が足りていない事項の全てに対応するのではなく、当社にフィットするものやマテリアリティに絞り、改善を繰り返して取り組むようにしています。

英文開示のメリットはどのようなことだと思われますか。

沓掛さん:メリットというよりは、英文開示は大前提と認識しています。海外投資家との面談でも、英訳済の決算説明会資料などを活用し、資料をもとに対話が進むことが多いため、英文資料を用意しておくことは大事です。事前にコーポレートサイトを見て面談に臨む海外投資家が多いと感じており、日本語しか開示資料がないと海外投資家との接点が少なくなり、対話の機会が失われてしまうのではないかと思います。どういった投資家と面談するかは各々戦略があると思いますが、特にESGの観点から評価を受けたいと思うなら英文開示は必須になると思います。

村上さん:グローバルな視点でESGをしっかり行っていくには適切なフィードバックをもらうことが必要です。色々なことに取り組みたい、新しい視点を取り入れたいと思うなら英文開示はその第一歩であり、海外からの評価をもらうところから始まると考えています。

(取材日:2022年1月18日)