エネルギー市場の「未来」

 
エネルギー市場の「未来」

これから先、世界のエネルギー情勢はどうなるのか?

ここ数年の激動をふまえて、未来のエネルギー情勢はどうなっていくのか?
現時点で確度の高い予測は不可能ですが、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて脱炭素化が進んでいくことは、おそらく間違いないと考えられます。少なくとも現時点において、そのゴールは変わっていません。
また、脱炭素化という流れの中で、再生可能エネルギーが主役となり、石炭や石油などの化石燃料の比率が低下していくことも、ほぼ既定路線と言えるでしょう。ただし、ここ数年の状況からすると、一定のスピードダウンはやむをえないと考えられます。
自然由来の発電方法(太陽光や風力など)の改善や新しい再生可能エネルギーの開発・普及に関して試行錯誤を重ねながら、再生可能エネルギーによる発電量が不足した際は化石燃料による発電で補いつつ、2050年のカーボンニュートラル達成を目指していくという歩みになるかと予想されます。

2050年のカーボンニュートラル実現に向けて

2021年11月時点で、日本を含む144カ国が2050年までのカーボンニュートラル実現を表明しています。


主要国の2030年中期目標と2050年長期目標

2030年に向けた日本のエネルギー計画

2021年に発表された「エネルギー基本計画」では、再生エネルギーの比率が3分の1を超え、メインの電源とすることを目指しています。また、再生エネルギーのうち、太陽光と水力による発電が主力になると想定されています。


2030年における電源構成の見通し

化石燃料の「これから」

  • LNGについて
    石炭や石油と比べてCO2の排出量が比較的少ない燃料であり、再生可能エネルギー等の発電量不足を補うミドル電源として有用なエネルギー源と言えます。しかし、ロシアへの経済制裁や地政学的リスク等の影響を考慮すると、需要と供給のミスマッチによる価格高騰もしくは高止まりなどのリスクも否定できません。
  • 石炭について
    電力の安定供給を支えるベースロード電源として、また、自国で石炭が採取できる新興国等では直近の経済発展を支える安価なエネルギー源として、当面の間は使用が継続されると予想されます。
  • 石油について
    日本では2030年代にガソリン車の新車販売を廃止することが目標となっています。しかし、新車販売が禁止となっても既存のガソリン車をすぐに使用禁止にすることは不可能であり、しばらくの間はガソリン車と電気自動車等との共存状態が続く見込み。また、プラスチックなどの石油化学製品の原料としての使用もしばらくは継続されると考えられます。
  • LPGについて
    日本では広く一般家庭などで利用されているLPGですが、政府のエネルギー基本計画では使用量の減少が想定されています。

次世代エネルギーの可能性

太陽光や風力などの自然エネルギーを活用した発電は、電力供給の不安定性や発電設備が環境や地域へ与える影響(山林の破壊、風車による騒音など)がここ10年で顕在化し、何らかの見直しや改善が必要となっています。

将来を託したはずの有望選手が想定外の壁に直面する中で、次の有望選手はいるのか?

その筆頭としては、水素が挙げられます。しかし、水素は「つくる・はこぶ・ためる・つかう」という一連のサプライチェーンに関して技術的ハードルやインフラ整備の課題などが残っており、すぐに実用化・普及拡大が進む状況ではないというのが実状です。
そのほかにも、水素とCO2からメタン(都市ガスの主成分)を合成する「メタネーション」や、燃焼時にCO2を排出しない「アンモニア」なども次世代エネルギーとして期待されていますが、これらに関しても、2050年に主役に立てるかというと、まだ実績が不足しているのでその期待値は決して高いとは言えないでしょう。発電ということに関しては、「核融合」が実用化されることで多くの問題が解決されると期待されますが、これに関しても実用化という観点では、まだまだ先の長い話と言えます。

これからのエネルギーは、こういった次世代エネルギーたちが少しずつ力を伸ばし、互いにタスキをつなぎながら、まずは2050年を一区切りとして走り続けて行かなければならないと予想されます。

イノベーションが導く新たな可能性

未来のエネルギー情勢がまだ予測不能な部分が多いですが、この分野で何らかのイノベーションを生み出せれば、状況は大きく好転し、ビジネス的にも大きなチャンスが得られる可能性があるかと思います。
たとえば、電力の安定化を可能にする技術やノウハウを生み出せれば世界に対して知的財産として販売することができますし、需給の安定化は価格の低下につながるので、それによって電力販売量の増加や電力ビジネスの活発化なども期待できます。
また、電力の供給安定化・価格低下には、日本の製造業の国内回帰をうながすといった好影響も考えられます。
何年も前から多くの日本メーカーが製造拠点を国外に移していますが、その理由は人件費と電気料金の削減がメインでした。しかし、現在は移転先の人件費も上昇しており、人件費削減というメリットは低下しています。電気料金についても、世界的に価格上昇が続いているのはご説明してきたとおりです。このような状況に対して、もし日本で安定的かつ安価な電力供給が実現できれば、もはや海外に製造拠点を持つメリットは少なくなり、輸送コストや製造現場との距離の近さなどを勘案すると、むしろ日本で製造した方がコストの軽減が図れるという現象が起こりえるのです。

楽観的な未来像かもしれませんが、いずれにしても電力供給の安定を起点に技術革新が進むことは、ビジネス的にも社会的にも意義や価値のあることであり、これから先の未来に必要不可欠であることは間違いないでしょう。

イノベーションのための「リスク分散」

未来のエネルギーは今後のイノベーションにかかっているとはいえ、そう簡単に実現できるものではないということも一つの事実です。その実現には、トライアル&エラーの積み重ねによって一歩ずつ前進するほかなく、相応の時間と技術開発のための資本が必要となってきます。
それでは、新たなイノベーションが生まれて世に広まるまで、どのようにして目の前の現実と向き合っていけばいいのか?
そこに「リスクヘッジ」のコンセプトが重要になってくると思っています。

たとえば、電力事業者であれば、近い将来に関しては電力先物取引が一つの手段として考えられます。
その一方、遠い将来に対しては、事業の「多角化」「多様化」といった手段が考えられます。
たとえば、電力小売事業者であれば市場からの調達だけに頼るのではなく、みずから発電設備を保有することで調達リスクを分散することができます。また、発電設備の保有に関しても、西日本では太陽光、東日本では風力といった具合に発電方法と地域を多様化すれば、天候による発電量の増減というリスクを分散することが可能になります。この発想をさらに広げれば、国外で発電事業を展開するといったことも考慮の一つになるかと思います。また、電力に代わる次世代エネルギーの開発に投資することもリスク分散となりうるでしょう。
小売事業者が発電事業にチャレンジすることは、なかなかハードルが高いかもしれません。しかし、かつて化石燃料の流通や販売を手掛けていた事業者が、みずから資源開発に進出し、大きく成長したという先例もあり、チャレンジする価値はあるかと思います。
電力事業に関しては、送電という面も見逃せません。日本の送配電設備は老朽化が進んでおり、メンテナンスだけで対応することも限界に近い状態にあります。設備のリプレイスはもはや喫緊の問題であり、この分野においても新たなチャンスがありうるのではないでしょうか。

未来に向けた需要喚起

最後に、もう一つ、これまでは供給側の視点の話でしたが、エネルギーの未来に関しては需要側の変化も大切です。
イノベーションの必要性はすでに述べた通りですが、そうやって生まれる新たな製品やサービスは、当初、それなりに高い価格となることが予想されます。それでもその価値を認めて、あえて購入・利用をする。そして、そういう選択をする人が増え、広く普及することで、コストも下がり、新たなイノベーションが広く社会に貢献するようになる。つまり、消費者が求めることで、イノベーションの開発と普及が促進されるというわけです。実際にコロナ禍の前後の時期には日本製の高価格・高機能家電の販売が増加しました。
カーボンニュートラルやエネルギーの未来を追求するためには、消費者としても一時的なコスト増を受け入れる意識が重要であり、むしろそれこそが目指す未来へと進む原動力となり、先行投資ともなります。そういう意味では、電力事業者をはじめとする各種事業者のみなさんは、調達や供給という側面はもちろんのこと、消費者の意識を変えるようなマーケティング戦略の構築も今後は大切になってくるかと考えています。

  • 本記事は、2022年6月の取材に基づいて構成しています。
    取材・構成:松本聡